私の好きなダム

豊稔池堰堤 扶壁と小径アーチの繰り返す正面
豊稔池堰堤 扶壁と小径アーチの繰り返す正面

ダム好きの「きっかけ」

本山 普士MOTOYAMA Hirohito
環境・防災系部門
地盤・防災グループ
プロジェクトマネージャー

とても些細なことですが、「きっかけ」とは自分が思っている以上に力持ちです。

構造物の設計を自身が行うなど、かつてはとても思いもよらないことでした。しかし、大体十数年前でしょうか、筆者は「砂防堰堤」を設計する機会を与えられ、以来堰堤設計を主務として日々を過ごしています。

砂防堰堤は、世間一般に知られる水を貯める大型のダムと比べると小さい構造物です。しかし、「大は小を兼ねる」とは良く言ったもので、結局大型のダムの本質を知らないと、なぜ砂防堰堤がそのような形構えで良いのか、どういった考えで構造が成り立っているのか、が全く分かりません。

物を知ろうとするにも、いきなり専門書読破から取り掛かるのも気が重いものです。もう少しお手軽な所から始めよう、と考えていたところで巡り合ったウェブサイトがありました。そのサイトの管理人は、ダム巡りに行く先々で目にする砂防堰堤に興味を持ち、かつ多くの疑問をお持ちでした。その方と砂防の意義や背景について話をする機会があり、そこから大きなダムの話を伺い、ついには同好の士が集まるダム関連のイベントに参加するようになり、自然と知識が積み重なっていくようになりました。これが私のダム好きの「きっかけ」です。

好きこそものの上手なれ―ダムマニアの存在

昨今のダム趣味は、趣味として認知されつつあります。ダムの放流状況を撮影したDVDが販売されたり、ダムの巡訪録がネット媒体に掲載されるなど、市民権を得つつあります。

それら趣味人の心を捉えて離さないのは「構造物の大きさ」と「巨大構造物のモノの言わなさ」です。「現物の存在感」としてのダムの自己主張は大きいのですが、モノ言わぬため本当の役割は中々見えてきません。しかし、ダムマニアはその堤体がおかれた背景、その堤体の果たすべき役割を、場合によっては管理者や地元民よりもっていることがあるから驚きです。

私の好きなダム 3基

筆者は高知県出身であるため、好きなダムを挙げるとなると、どうしても四国にあるものになってしまいます。四国に200基前後存在するダムの中で、デザインが特徴的なもの、機能的であるもの、形式が特徴的なもの、の3基を以下に紹介します。

①豊稔池堰堤 香川県観音寺市

堤長128m 、堤高30.4m の堤体です。国内では希少なマルチプルアーチダムです。

このダムは農業利水を目的として1926年に着工し1929年に竣工しました。県営工事ではありましたが、築堤材料と建設労力のほとんどを地元から調達していたようで、ダムの完成が地域の期待を一身に担っていたことが伺えます。

堤体は粗石コンクリートを用い、表面は石積・石張が施されています。その造形は荘厳で中世の古城や砦を思わせます。扶壁を形作る強固な方形と、扶壁間を埋める小径アーチの繰り返す6径間は、剛と柔を兼ね揃えたバランスの良い空間を作り出しています。

しかし、堤体は経年により漏水等の問題を抱えることとなり、1988~1994年で補強工事が実施されています。補強は堤体背面への腹付補強として実施され、豊水期の湛水面より上部については、旧来の石積意匠を反映した化粧が施されています。

堤体の造形美も興味を持つ所でもありますが、個人的には堤体下流の減勢工の造形についても美しさを感じます。

②早明浦ダム 高知県長岡郡本山町・土佐郡土佐町

早明浦ダム 質実剛健な重力式堤体
早明浦ダム 質実剛健な重力式堤体

堤長400m 、堤高106m の四国最大のダムです。渇水が続くとダム湖に旧大川村役場の建屋が姿を現すことで有名です。

このダムは、多目的ダムの最たるもので、洪水調節・不特定利水・上水道、工業用水、灌漑(かんがい)、発電など、様々な目的を有することが特徴的です。香川県・徳島県で新規用水容量の70%、それに愛媛県も加えると新規用水容量の96%を使用する、まさに「四国のいのち」です。

この堤体は、シンプルではありますが圧倒的な存在感が際立っています。右岸側下流の土佐町からこのダムを見ると、山中に突如出現した「巨大壁」のように見えます。完全な左右対称とまではいきませんが、常用洪水吐、非常用洪水吐は対称に配置されており、ただの威圧感だけでは無い美しさも目にすることができます。

③穴内川ダム  高知県香美市

穴内川ダム 中空重力式の特徴が現れる上流面
穴内川ダム 中空重力式の特徴が現れる上流面

堤長251.9m、堤高66.6mの堤体です。一見、これまでのダムよりも見どころに乏しいようにも見えますが、中空重力式と云う我が国でも13基しかないダム形式のうちの1基です。

中空重力式は、主に電力会社での採用例が多いです。穴内川ダムも電力会社の所有で、発電目的のダムです。穴内川自体は吉野川水系に設置されたダムですが、穴内川ダムより穴内川、平山、新改の各発電所を経由した水は、最終的には高知平野に流出する国分川に分水されます。

渇水期に湛水池側から堤体を見ると中空空間を構成する六角柱の上流側部分突起を見ることができます。また、穴内川ダムはこの六角柱の上端部で非越流部の堤体下流面勾配が変化しており、ダム天端幅が著しく狭いという特徴があります。

ダムカードの収集

収集したダムカード イベントでプレミアカードが出ることも
収集したダムカード イベントでプレミアカードが出ることも

国土交通省管理下のダム、水資源機構管理下のダム、一部の地方自治体管理のダムや建設中のダムについて、ダムカードが制作され配布されています。現地に行かないと手に入らず、さらに管理所によっては平日のみの配布となる場合もあり、さらに希少価値が増すものがあります。ダム巡りの足跡として、是非収集されることをお勧めします。

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