はじめに
2024年9月30日(月)から2024年10月9日(水)までの10日間、一般社団法人日本プロジェクト産業協議会(JAPIC)主催の欧州インフラ視察に参加しました。本視察では、フランスのパリおよびスペイン各都市の視察を行いました。本稿では、スペイン北部の地方都市を通るサンティアゴ巡礼路について報告します。
サンティアゴ巡礼路
サンティアゴ巡礼路は、キリスト教の三大聖地のひとつである、スペイン西部に位置するサンティアゴ・デ・コンポステーラ(Santiago de Compostela)を目指す巡礼路です。「巡礼路」というと宗教的で神聖な印象がありますが、国や地域による支援や取り組みにより、キリスト教の信仰者のみならず、観光を目的とした巡礼も行われています。
サンティアゴ・デ・コンポステーラは1985年に世界遺産に登録され、巡礼路も1993年に世界遺産に登録されています。
巡礼路には複数のルートがあり、イベリア半島内では主に5つの有名なルートがあります。今回はその中で最も巡礼者が多い「フランス人の道」(フランス国境から約780km)に沿って、沿線の各地方都市を視察しながら、サンティアゴ・デ・コンポステーラを目指しました。
なお、日本には四国遍路があります。これは、空海が修行を行ったと伝えられる四国の88か所の札所を巡礼するものであり、その道のりは約1,400kmに及びます。
宿泊施設
巡礼者は何日もかけて長い道のりを進みます。その際の宿泊には、「アルベルゲ」「ホテル」「パラドール」(歴代王国の住まいであった城や宮殿、由緒ある修道院や領主の館などの歴史的建造物を宿泊施設としてリノベーションした国営ホテル)が利用されます。
この中でも、アルベルゲは多くの巡礼者に利用されている特徴的な宿泊施設です。アルベルゲに宿泊するためには「巡礼手帳(クレデンシャル)」が必要となります。予約は不要ですが、ベッドを確保するためには早めに到着する必要があります。また、原則として1泊のみの利用であり、天候不良や体調不良の場合を除き、連泊はできません。あくまでも巡礼の歩みを進めるための一時的な宿泊施設となっています。
アルベルゲの運営主体は、国や州などの公的機関、修道院や教会、巡礼者協会のほか、個人やNPO法人が経営するものなど多岐にわたります。巡礼路沿いにはアルベルゲのある街が点在しており、巡礼者は宿泊場所の確保を心配することなく、巡礼の旅を続けることができます。
また、アルベルゲは世界各国のボランティアの協力によって運営されており、我々が訪問したアルベルゲでは、地元レオンのほか、スコットランドやブラジルからのボランティアスタッフが運営を支えていました。さらに、巡礼者向けの荷物配送サービスもあり、朝に荷物を預けると、その日のうちに次のアルベルゲへ配送してもらえます。このようなサービスが巡礼のハードルを下げているといえます。
我が国の四国遍路の宿泊施設としては、民宿、宿坊、ビジネスホテル、旅館などが利用されています。遍路人数の減少や宿主の高齢化、後継者・人手不足などにより、宿坊や旅館は減少傾向にあり、ビジネスホテルの利用が増加しています。
道しるべ
巡礼路沿線の各街には、巡礼のシンボルであるホタテ貝のマークや、青地に黄色の矢印などの「道しるべ」がさまざまな場所に設置されており、ゴールであるサンティアゴ・デ・コンポステーラの方向や距離を示しています。
我々が訪れたレオン旧市街の石畳の通りには、ホタテ貝をモチーフにした金属製の道しるべが埋め込まれていました。また、別の街では家の壁に貝殻マークのタイルが設置されていたり、道路や街路樹に黄色いペンキで矢印が描かれていたりする様子が見られました。
スマホアプリ(巡礼ガイド)
サンティアゴ巡礼路に関しては、さまざまなスマートフォン用アプリが用意されています。これらのアプリでは、ルートや距離の確認、各街におけるアルベルゲやホテルなどの宿泊施設に関する情報(場所、費用、連絡先など)が集約されており、巡礼者が必要な情報を容易に入手できるようになっています。
巡礼事務所・巡礼証明書
サンティアゴ・デ・コンポステーラに到着すると、巡礼者は大聖堂近くにある巡礼事務所に向かい、アルベルゲでスタンプを押したクレデンシャルを提示して、巡礼完了証明書の発行を受けます。訪問時にも、多くの巡礼者が申請手続きを行っていました。
なお、巡礼事務所前には「最終地点まで0km」を示す道しるべが設置されています。
巡礼者について
巡礼者数は年々増加しており、2024年には全体で約45万6千人となり、この10年間で約2倍に増えています。
巡礼者の年代構成は、18~45歳および46~65歳がそれぞれ約4割を占めており、65歳以上は約1割となっています。男女別では、かつては男性の割合が高い状況でしたが、近年は女性の巡礼者が年々増加しており、現在では女性の割合の方が高くなっています。
国別では、スペイン国内からの巡礼者が5割弱を占めており、アメリカ、イタリア、ドイツなど、さまざまな国から巡礼者が訪れています。アジア地域では、近年は韓国からの巡礼者数が増加しており、2024年は約7,000人、日本からは約1,500人となっています。
1993年の世界遺産登録以降、巡礼者数は継続的に増加しており、巡礼経験者がボランティアとして新たな巡礼者を支えるという好循環が形成されていると考えられます。
日本との関係では、サンティアゴ巡礼路と熊野古道が世界遺産参詣道として、2008年から共同プロモーションプロジェクトを展開しています。また、サンティアゴ巡礼路と四国遍路(ガリシア州と四国4県)は、2015年に四国遍路の世界遺産化活動に関する協力協定を締結しています。スペインの巡礼者にとって四国遍路はよく知られており、我々が訪問したアルベルゲのスタッフも四国遍路について認識していました。
さいごに
南部 浩之NANBU Hiroyuki
計画系部門
ゼネラルマネージャー
視察前は、「巡礼路」という名称から、ストイックで神聖なイメージを抱いていましたが、実際には多くの巡礼者がスポーティな服装で巡礼を続けており、今回の視察を通して、観光やスポーツの要素も強いことを実感しました。
また、訪問したアルベルゲのボランティアスタッフが、「自分を見つめる機会として、一生に一度は巡礼することが良い」と話していた言葉が大変印象に残っています。
伝統的な資源を多くの組織や人々が支え、それが持続可能な観光資源として地域振興や国際交流につながっていることを実感できた視察でした。