​​三宮駅周辺歩行者デッキ設計競技プロジェクト
Project Story . 03

チームの力で神戸への思いをかたちに

​​三宮駅周辺歩行者デッキ設計競技プロジェクト

神戸市の三宮周辺地区内にある6つの駅(JR、阪急、阪神、地下鉄西神・山手線、地下鉄海岸線、ポートライナー)は改札口のレベルが地下・地上・2階・3階と異なり、それらをつなぐ動線の整理は長年の課題でした。さらに神戸市は官民連携で「えき≈まち空間」の整備を進め、この課題の解決と地域の賑わいの創出を目指しています。

CFKはこの「えき≈まち空間」の中心に位置する「歩行者デッキ」の設計競技(コンペ)で最優秀に選ばれました。若手技術者を中心に経験豊富なベテランが支えるチーム構成で挑んだこのコンペ。技術的な難易度も高く多くの壁が立ちはだかりましたが、メンバーの神戸の街への思いとCFKが培った経験で、上質で洗練された空間にふさわしいデザインを提案しました。

大きなキーとなったのは「濃密なコミュニケーション」だとメンバーは語ります。その背景には、CFKに長く深く根付くフラットな風土がありました。

左から順に
松原 加奈子(構造系部門 橋梁・長寿命化グループ)
中矢 昌希(総合技術本部 社会インフラマネジメントセンター チームリーダー)
加藤 慎吾(構造系部門 橋梁・長寿命化グループ プロジェクトマネージャー)
小松 純(構造系部門 橋梁・長寿命化グループ 統括リーダー)
森 彩(構造系部門 橋梁・長寿命化グループ チームリーダー)

個性を活かしあうチーム構成

阪神淡路大震災から約20年が経った平成26年、CFKは神戸市とともに都心・三宮の再整備事業に着手しました。復旧・復興の段階を終え神戸市が新しいステージに向かうため、まずは都心の活気を取り戻そうと始まった事業です。その一つとして挙がったのが三宮の歩行者デッキの再整備。6つの駅が集まる三宮周辺では動線の複雑さが課題となっていました。

加藤:私は三宮周辺デッキの計画作りに初期から関わってきたのですが、歩行者デッキを再整備するにあたって、ただ単に課題をクリアするだけのデッキではだめだと思いました。そこで、都心を元気にする、神戸の顔となるようなデッキにしたいと思い、他社も参加するコンペを行うことを神戸市に提案しました。コンペという形で自由な発想を取り入れ、切磋琢磨した方がいいものが作れると思ったからです。

中矢: CFKのことよりも神戸市にとって何が大事かを優先するなんて、ある意味青臭いですよね(笑)。でも、最終的にどれだけ街の役に立つものが作れるかの方が大事なんです。最初に考えるのは社会、世の中のことで、会社はその次。

小松:それに、勝つ自信もありましたからね。

コンペに挑むCFKのチーム構成は、管理技術者の加藤と計画担当の中矢を中心に、サポート役として入社6年目の松原、ベテランの森と小松。さらにJV(共同企業体、ジョイント・ベンチャー)として外部の2社が加わりました。

中矢:加藤くんは地元も兵庫だし、この事業にもずっと関わっていて地域のことをよく知っている。だから、加藤くんが管理技術者になるのが一番良いと思いました。

森:私はCFKが参加したこれまでのコンペの経験を分析していて、若手社員の主体性が存分に発揮されることがなによりも重要だと思っていました。それで、30代の加藤くんを管理技術者に先輩社員が知識と経験で支える形を取ったという背景もあります。

小松:以前から一緒に仕事をする機会が多かったメンバーがほとんどなので、お互いに通じ合える円滑なコミュニケーションのベースができていたのもよかったですね。

松原:私は他のメンバーの “かゆいところに手が届く” ような動きができればと思いながら、細かいところをフォローしていました。常に状況を追ってついていけるように必死でした。

中矢:必死だったなんて言ってますけど、松原さんは本当に “かゆいところ” によく気づいてくれて。チームになくてはならない存在でした。

加藤:最後の方はもう「あれ確認しといて」と言うだけで……

松原:「あ、あれですね」って(笑)

加藤:問題意識がちゃんと同じところを向いているから、「あれ」で通じるんですよね。

神戸への思いをベースに自由に意見を交わし合った

コンペに参加する場合、著名なデザイナーなどをチームに招くこともあります。しかし、今回はそういった “スーパーマン” のいないチーム編成の良い面が出たとメンバーは言います。

小松:著名な方が入っていると「この方が言ってるんだから正しいんだろうな」と思考停止してしまって議論が進まないこともある。今回は全員が萎縮せずに自由に意見を言い合えたのがよかったと思います。

中矢:「誰が言ってるか」じゃなくて「何を言ってるか」で議論ができたのはすごく大きかったですね。私たちもJVチームのメンバーも一人一人が専門分野や得意領域を持っています。今回は、そういった個々の強みを活かしながらも、それぞれが専門外の事柄についても意見を出し合いました。互いに互いを分かり合いながら進めていったんです。

加藤:今回の経験を経て、フラットに意見を言い合うことの大切さに改めて気づけたので、もし次に著名な方と組むことがあってもうまくいくような気がしますね。

兵庫県出身の加藤や神戸市在住の中矢をはじめ、チームメンバーのほとんどが神戸にゆかりがあり、それぞれが神戸のまちに対して強い思いを持っていたことも勝因のひとつだったとメンバーは振り返ります。「えきとまちをつなぐ人にやさしいデッキ」というコンセプトにはそんなメンバーの思いが詰まっています。

中矢:コンセプトについてはこれでもかという程、議論をしました。会議が2時間で終わったことなんかなかったですからね。3社で集まって3時間も4時間もアイデアを交わしました。会議だけではなくて、日々Slackを使ってそれぞれが考えたことや新しく見つけたネタを交換し合い、濃厚に理解し合ったからこそ、作り上げたコンセプトが最後までぶれることがありませんでした。

加藤:「こういう形のデッキを作りたい」ではなくて「こういう体験ができる場にしたい」というのがスタート。案出しも最初スケッチからじゃなくて、文章からでした。神戸にみんなゆかりがあって自分がそこでどう過ごすかをイメージできたから、こういうやり方ができたんだと思います。

中矢:「地上の広場や周辺の建物をゆるやかに『つなぐ』ことを大切にしたい」「ただ通行するだけではなく、若者から高齢者までゆったりと過ごせる場にしたい」。そういった思いをそれぞれが言葉にして、コンセプトをブラッシュアップしていきました。

受け継がれていくCFKマインド

今回のキーとなったフラットな議論ができる風土は、CFKの伝統でもあります。その根底にあるのは、技術者同士のリスペクトと社会的共通資本を作るという土木の精神。そういったマインドはCFKで仕事をする中で自然と身についていったと5人は口を揃えます。

森:普段から上司であっても「さん」付けで呼びますし、必要以上に言葉を選んで話さなければならないという場面はほとんどありません。

小松:かといって友達同士のような馴れ合いがあるわけでもなく。建前ではなく、本当にフラットで風通しがいい会社だと思います。

中矢:意見やアイデアを出すことに年齢は関係ありません。私の若い頃も、先輩たちが意見を出しやすいようにしてくれてたんですよね。だから当たり前のようにそれを受け継いでいるんです。自分がしてもらった以上のことを後輩にしてあげたいという思いをみんなが持っています。

加藤:私は森さんと一年目から一緒に仕事をしてきて、本当にいろいろなことを教わりました。私がまだ新人の頃に、森さんが担当していた阿倍野歩道橋のプロジェクトに一緒に関わって、目立って何をしたというわけでもないんですが、間近でその一部始終を見ていました。今思うと、あれはすごくいい経験だったなと。

松原:そういった経験を積むために、このチームに入れてもらったんだろうなということは意識していましたね。

中矢:「すぐそばで見ている」というのは大事ですよ。実際に経験しないとわからないことって絶対ありますからね。この経験を経て、数年後には松原さんが今の加藤くんの位置に座ってインタビューを受けることになるといいですよね。