水素社会へのCFKの取組

水素社会へのCFKの取組

田保 雅章
TABO masaaki
環境・防災系部門
環境グループ
プロジェクトマネージャー

水素は、発電・輸送・産業等、幅広い分野で活用が期待されるカーボンニュートラルのキーテクノロジーであり、国・地方公共団体・研究機関・民間企業等が、水素社会の実現を目指し、水素の利活用に関する様々な施策・技術開発・取組を進めています。CFKにおいては、公共交通機関=路線バスへの燃料電池バス(FCバス)導入を想定した水素供給インフラ整備の検討業務を通して、水素社会の実現のための取組を行っています。

2050年カーボンニュートラル

2020年10月、日本は「2050年カーボンニュートラル」を目指すことを宣言しました。温室効果ガスが地球温暖化を引き起こし、気候変動をもたらしていることが世界的に議論されて久しいです。1992年に国連の下、「気候変動に関する国際連合枠組条約」が採択され、1997年に京都で開催された気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)での「京都議定書」、2015年にフランス・パリで開催されたCOP21での「パリ協定」など、地球温暖化対策が世界で推進されています。

しかし、地球温暖化の改善の傾向は見られず、年々暑くなる夏、短くなる春と秋、豪雨の強大化と豪雨による大災害、季節を問わない台風の発生など、気候変動の影響は増大しています。この問題と決別すべく打ち出されたのが、「2050年カーボンニュートラル」です。

カーボンニュートラル実現に向けて

1 カーボンニュートラルの方向性
経済産業省「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」

2021年4月、菅首相(当時)が「日本の温室効果ガス排出量を、2030年には2013年度比46%削減、さらに50%の高みに向けて挑戦、そして2050年にはゼロにする」ことを宣言しました。この目標を実現するため、現在、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」(2020年12月・2021年6月)、「地球温暖化対策計画」(2021年10月)、「第6次エネルギー基本計画」(2021年10月)など、新しい目標設定と政策・施策の策定が類をみないスピードで進められています。この中で着目すべきは、日本のエネルギーを化石燃料に頼らず脱炭素化するということであり、その代替エネルギーとして、再生可能エネルギー、原子力、水素、アンモニア、合成燃料・合成メタン、バイオマスなどに切り替えることです。現在、使用しているエネルギーがガラリと変わり、2050年には化石燃料が補助エネルギーになる社会が来ます。本稿では、化石燃料に取って代わり次世代エネルギーの主軸とされている「水素」に着目して概説します。

水素エネルギー、その利活用と課題

2 水素の利活用イメージ 環境省ホームページ

水素はそのエネルギー発生過程においてCO2を発生しない脱炭素エネルギーです。そのような水素が、今、発電・熱利用のエネルギー源、燃料電池の燃料、鉄の還元材料、再生可能エネルギーの貯蔵(Power-to-gas)などとして利用され始めており、その利用の拡大・大規模化に向けて技術開発が進められています。

国においても、2017年に「水素基本戦略」、2019年に「水素・燃料電池戦略ロードマップ」を策定し、水素に特化した利活用のための戦略を立てるとともに、民間企業などの技術開発のための実証実験を支援しています。

水素の利活用は、幅広い。燃料電池自動車(FCV:Fuel Cell Vehicle)や家庭用燃料電池システム(エネファーム)、船舶や鉄道、バス、航空機などの他の輸送分野、水素発電、石油・化学、製鉄所など、現在、化石燃料を使用しているものを水素エネルギーで代替することにより、脱炭素化を図ることができます。ただし、ここで留意しなければならないのは、水素製造の過程におけるCO2発生です。水素製造時に直接的・間接的に発生されるCO2を削減するため、CCS(Carbondioxide Capture and Storage)等のCO2排出を低減する技術との組合せや、再生可能エネルギーを活用して水素を製造する実証実験(福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R))が進められています。

地方公共団体の取組

水素の利活用については、現在、多くの都道府県・市町村においても、戦略・ビジョン等が策定され、具体的な施策・取組が進められています。FCV・燃料電池の普及促進や、水素関連分野の技術開発・事業開発支援、市民への普及啓発などに取り組むとしている一方で、地方公共団体自らが水素を利活用し、そのための供給インフラを整備するということには限界があります。地方公共団体自らが供給インフラも含めて水素を利活用する方策の一つとして、公共交通に水素を導入することがあります。名古屋市においても市内を運行する路線バスにFCバスを導入することを想定し、その際の水素供給インフラの整備について検討が開始され、CFKがその検討に携わりました。

路線バスへのFCバス導入

トヨタ自動車株式会社が量販型燃料電池バス「SORA」(路線バス仕様)を開発し、東京都、宮城県、福島県、横浜市、埼玉県、豊田市、姫路市などで路線バスにFCバスが導入されています。FCバスを導入する際の課題の一つとして水素充填対応があります。ディーゼル車の場合、多くのバス事業者は自社敷地内に自社所有の給油施設を設置し給油を行いますが、水素の場合、ステーション(ST)の整備費(約4.5億円)、運営費(年間約4,300万円)(いずれも経済産業省資料)というコストから、なかなか自社所有施設で充填することは難しいです。既に導入されているFCバスも、敷地外の民間水素STを活用して充填が行われています。さらに、水素STは、まだどこにでもあるという状況ではありません。このため、FCバスの導入は、水素充填対応とセットで検討を進めなければならないのです。名古屋市においても、路線バスへFCバスを導入することを想定し、バスへ水素を充填するための実現性を検討する必要がありました。

1)検討の前提条件

FCバスへの水素充填の実現性を検討するに当たり、水素ST事業者、FCバス導入済みバス事業者、FCバス製造事業者などにヒアリングを行い、前提条件を整理しました。

  • FCバスの水素充填に既設のFCV用の水素STを活用できる
  • FCバス1台の水素充填は約30分間隔
  • ディスペンサ1台では、バス10数台が1日の上限である(8時間営業)
  • 1日当たり10台のFCバスに水素充填するのであればバス対応STを新設することが基本
  • ST休業時に備え、毎日水素充填するためには2ヵ所のSTの確保が必要
  • 毎日の水素充填の利便性を考慮し、バス営業所からSTまで3km圏内が基本範囲、6km圏内が許容範囲
  • 名古屋市内で運行する路線バスの営業所は13ヵ所があり、定置式水素ステーションが市内及び近郊に12ヵ所ある
  • FCバスは段階的に増台し、試行段階(3台)、初期段階(10台)、本格段階(30台(=10台×3営業所))を想定

2)実現性検討結果

FCバスへの水素充填の実現性検討は、名古屋市内及び近郊の13バス営業所それぞれについて周辺の既存水素STの立地状況・設備整備状況・運営状況等を整理することにより実施しました。試行段階(3台)、初期段階(10台)については、既存STの活用・改修、ST新設により実現性が高いと考えられる営業所を複数抽出しました。本格段階(30台(=10台×3営業所))については、既存STを活用せず、全てバス対応の新設STで休業時の充填対応も含めて実施する体制とし、それが実現できる3営業所の組合せを複数抽出し、抽出した組合せに対して新設STの適地エリアを選定しました。これにより、毎日の水素充填の利便性を含め、どの営業所においてFCバス導入の実現性が高く、既存STを活用する場合、どの営業所がどのSTを活用するか、STを新設する場合、どのエリアに新設することが効果的であるかなど、一連での水素STの活用・整備の考え方を整理しました。

新しい世の中

「水素」は一部のところで活用され、いずれ社会全体に浸透し、CO2削減に貢献する要素の一つと“他人事”のように漠然と思っていました。しかし、“他人事”ではなく、「水素社会」はカーボンニュートラルを実現するために不可欠な姿であり、むしろ水素社会が来なければ、いつまでも地球温暖化問題が解決されず、気候変動と決別できないままになるのではないかと考えるようになりました。

新しいモノを創る人がいる、新しいモノを使う人がいる、そして新しい世の中が生まれる。世の中はこのサイクルを増幅させながら回転し、どんどんと便利に豊かになっているのだと思います。コンサルタントは、このサイクルの回転数をブーストさせることが使命だと感じています。この先、どんな新しいモノに出会えて、また自分がどんな新しいことを考えることができるのか、ワクワクしています。

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