既存アンカー耐力式の係船曲柱用アンカーへの適用性の検討

係船曲柱とは

尾崎 竜三OZAKI Ryuzo
構造系部門
港湾・空港グループ
統括リーダー

係船曲柱とは船舶を安全に係留するために岸壁に設置される付帯設備で、通常アンカーによってコンクリート基礎に固定されています(写真1)。いささか昭和のイメージではありますが、波止場で足を乗せるポーズをとるあれです。

近年の船舶の大型化に伴い、高さが1mを超える大型係船曲柱が必要になります。しかし、係船曲柱の大型化により係船曲柱に係留索を掛け外しする作業がしづらくなり、作業員にとって問題となっています。そこまで大きいと足も乗せられません。

1 基礎コンクリート打設前の係船曲柱とアンカー

係船曲柱の小型化に向けて

2 コーン状破壊の考え方

そのため(と言っても足を乗せるためではありませんが)、係船曲柱自体の小型化が検討されるとともに、それを固定するアンカーの小型化のために、既存アンカー耐力式を係船曲柱アンカーの設計へ適用することが検討されています1)

その候補の1つが日本建築学会の各種合成構造設計指針・同解説2)に示されるアンカー耐力式(以下、既存耐力式と記す)です。これはアンカー板を底面として筒状に形成されるせん断破壊面を想定した従来の耐力式と異なり、図2のようなコーン状破壊面を想定したものです。また、係船曲柱のアンカーの諸条件とは異なる実験条件下で構築されています。

本報告では

CFKは、この耐力式の適用性を検証するために、まず、既存のアンカー引抜き実験を3次元FEM解析により再現しました。次に、係船曲柱用の実物大のアンカーを対象にアンカーの引張破壊に至る挙動を解析的に確認しました。

本報告では、CFKで2020年度に係船曲柱の設計法について検討した業務の一部を紹介します。

FEM解析ケース・モデルなど

標準的な係船曲柱に採用されている種類のアンカーを対象に検討します。解析で再現する実験ケースとして、矢野ら3)による実験を採用しました。また、実物大のアンカーの解析は50kN型係船曲柱のアンカーを対象としました。解析ケースを表3にまとめます。

3 FEM解析ケースの概要など
4 材料特性

コンクリート、アンカーの特性を表4に示します。コンクリートの引張破壊を先行させるため、アンカーは弾性体として破壊に至らないものとしました。今回用いた解析プログラムでは一般的なコンクリート材料を再現するように材料パラメタが自動生成されます。その中で、解析上、とくに影響が大きい引張側の軟化特性に関するパラメタをメッシュ依存性軽減のために再現ケースで調整しました。

5 3次元FEMモデル:ケース(1)

再現ケース(1)のアンカー1本を鉛直に配置した解析モデルを図5に示します。本ケースでは1/4領域をモデル化しました。これは対称性を考慮したものであるとともに、解析に要する時間、コストをできるだけ抑えるためです。

再現ケースの解析結果と考察

6 ダメージ指標分布:ケース(1)

図6に再現ケース(1)のダメージ指標分布を示します。ダメージ指標は、材料モデルの仕様により一部修正された相当塑性ひずみを用いて算出される指標です。アンカー先端からダメージ指標が最大値に達して引張破壊面(赤色の帯)が形成されていることが分かります。既存耐力式適用時の45度のコーン状破壊面より緩い破壊面ですが、「ヘッド近辺では約45度の急勾配であるが、コンクリート表面に近づくに従い緩勾配の曲線となる。」と文献3)に記載があり、結果と調和的でした。

7 最大引張荷重の比較:ケース(1)~(4)

図7に再に再現ケースの各ケースの実験結果(読取値)、FEM解析結果、既存耐力式による算出値をアンカー間隔に対してプロットしました。本図より実験結果、FEM解析結果、耐力式算出値はいずれも調和的であること、解析で概ね実験を再現できたことが分かります。

実物ケースの解析結果と考察

8 ダメージ指標分布:ケース(7)

図8に実物ケースのケース(7)についてダメージ指標分布を示します。アンカーが実物形状であること、アンカーを斜めに配置することにより、破壊面の形状が鉛直配置と異なり、とくに立ち上がりの角度が右側、左側ともに鉛直アンカーの場合よりも緩い結果となりました。

次に実物ケースの変異と荷重の関係および最大引張耐力と既存耐力式の算出値との比較を図表9に示します。鉛直配置のケース(7)、(8)では、解析結果が小さい値となりました。ケース(5)はアンカー長に比べてヘッドが小さく、アンカーが抜けるような挙動(支圧破壊)となり、コーン状破壊時の耐力を発揮できなかったと考えられます。ケース(6)の解析結果と耐力式は調和的でした。斜め配置のケースでは、解析結果は耐力式算出値を大きく上回る結果となりました。

既存耐力式の斜め配置のアンカーへの適用方法は示されておらず、ここでは傾斜したアンカーのヘッドから45度方向に発生したコーン状破壊面(図8の右下図面)がコンクリート表面と交差する円錐底面を有効投影面積として耐力を算出しました。

この破壊面の角度差や進展状況の違いが解析値と耐力式の差の一因であると推察されます。斜め配置の際の既存耐力式の適用方法は今後の課題です。

9 変位と荷重の関係および最大引張荷重の比較

おわりに

係船曲柱アンカーの設計への既存アンカー耐力式の適用性を検討するために、3次元FEM解析を実施し、実験の再現、実物アンカーの破壊挙動を検証しました。今回の検討条件下での結果ですが、FEM解析により実験を概ね再現できました。鉛直配置のアンカーではコーン状破壊の耐力式と調和的でした。また、既存耐力式による斜め配置のアンカーの耐力は安全側の値を算出することが分かりました。

2021年度も係船柱に関連した検討を含む国土交通省 国土技術政策総合研究所の業務を遂行しています。アンカー単体だけでなく、係船柱全体の合理的な設計となるように尽力したいです。大型船舶を係留可能で、かつ足を乗せられる程度の係船柱が得られる設計法になることを期待しています。

 

【参考文献】
1)中村ら:係船柱用アンカーボルトの小型化に向けた設計法の比較,第75回土木学会年次学術講演会概要集,2020.
2)日本建築学会:各種合成構造設計指針・同解説,2014.
3)矢野ら:機器配管用支持構造物(埋込金物)の耐力に関する実験研究(その10 埋込金物の極限耐力に及ぼす郡効果の影響),日本建築学会大会学術講演梗概集,1982.

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