本海外調査の目的
欧州では、都市内の基幹公共交通軸や都市内交通ネットワークの要として、バス交通をベースとした新たなシステムの導入や既存ネットワークの再編、施設の高質化等の取組みが進んでいます。中でも、フランスなどのBHLS(Bus with a high level of service)とよばれる新たなシステムでは、LRT(Light Rail Transit)などと同様に、持続可能なまちづくりのツールとして、信頼性の高い包括的な案内・信号システムや運行・運賃体系、使いやすく特徴的・効率的な車両、専用走行路や停留所・ハブなどの都市空間との一体整備が推進されています。
今回の調査団ではBHLSを中心に都市交通としての一体的な運賃システムや情報案内、車両の電動化などの先進技術の導入が都市空間・道路インフラの再構築などと合わせて、都市交通システムとして整備されている4都市を訪問し、都市整備と合わせた幹線交通の展開の参考事例として視察しました。
調査日程
2025年6月10日(火)に日本を出発して、19日(木)に帰国しました。10日間にわたる調査行程で、フランスとオランダを訪問しました。
フランスでは、フランス政府直轄の国土・都市・交通の研究機関であるCERAMAが立地するリヨン、リヨンの周辺都市であるグルノーブル、BHNSの先進事例を多く抱えるナント、オランダでは、アムステルダムとバス車両メーカーが立地するアイントホーヘンを訪問しました。
今回の調査団は同業他社や交通事業者により構成され、総勢18名でした。調査期間中は調査団員それぞれがテーマを決めて、様々な都市を視察したため、調査団全体では、計16都市を訪問しました。調査期間中は、それぞれがどこに行って、どんなものを見てきたのかを話しながら夕飯をとっていたため、行っていない都市に関しても様々な情報を得ることができました。
「空間・財源が豊かなわけではない!」という発見
よく「フランスは道路環境が立派だから」「フランスは財源が調っているから」というセリフを聞きますが、実態はまったく異なっていました。フランスにおいても、「道路空間上の制約」「公共交通優先施策を実施した際の交通渋滞への対応」「公共交通施策推進のための財源確保」に関して悩みを抱えていることをCEREMAやナント市へのヒアリングを通じて知ることができました。特に興味深かったのはナント市です。
ナント市は今年、市長選がありますが、争点として①市長肝いりで実施した水上バスは本当に意味があったのか?②休日の公共交通無料施策が支出を圧迫しているが続ける意義はあるのか?が上がっているようです。公共交通施策は諸手を挙げて受け入れられるものと思っていましたが、決してそうではありませんでした。
確かに日本よりも進んでいる部分はあるかもしれませんが、実際は日本と同様の問題に直面している部分が多々あり、それらを様々な工夫で突破していることが分かりました。
会議前はお茶を片手に歓談するのがフランススタイル
「なるほど、そうきたか!」と思った空間の使い方
訪問した各都市では、限られた都市空間の中での様々な工夫のひとつに公共交通を優先するための道路空間の活用に驚きの連続でした。
例えば、ナントの都心地と南部の郊外を結ぶクロノバス(定時性が高く高品質なバスサービス)の運行ルートの一部区間は朝の通勤時間帯に郊外から都心部方面に自家用車の渋滞が発生します。この渋滞はバスの定時性を下げる要因となっていました。また、渋滞発生が朝に限られるため、バス専用レーンを整備しても、有効に活用できる時間帯が限られてしまいます。そのような背景を踏まえて、当該区間の路上駐車帯をバス専用レーンとして活用する解決策を採用していました。当該区間上には、沿道の店舗等への来訪用に路上駐車帯が整備されていました。この路上駐車帯が活用される時間帯は主に夕方です。そのため、利用が少ない朝の時間帯はこの駐車帯を駐停車禁止として、バス専用レーンの空間としていました。沿道の住民の一部は日常的にこの駐車帯を駐車スペースとして利用していたため、代替となる駐車場整備もセットで実施しています。
限られた道路空間を時間帯によって使い分ける、かしこい使い方をしていると強く実感しました。
バス専用走行レーンとして活用
路駐スペースを活用しているので
バス専用走行レーンとしては広めの幅員を確保
アムステルダムでは、トラムとバスが走行空間を共有している事例に多く出会いました。陸地が限られ、建物が密集している都心部では、トラムの空間を確保すると、車道2車線と歩道をわずかにしか確保できない場所が多くありました。そのような場所でバスの定時性を確保するために、トラムの軌道をバスが走行し、他の自動車の影響を受けないように工夫していました。
トラムとバスの走行空間の共用
トラムがバスの後ろにジリジリと
にじり寄ってくる
ナントではパトカーもトラム軌道を走行
実感できた日本の強み
フランス・オランダを視察し、連節バスが日常的にまちなかを走り、ほとんどのバスが電動化され排ガスも出ず、さらに高頻度で定時性高く運行されている様子に驚きの連続でした。
一方で、バスの運転の丁寧さや運転士の対応、様々な情報案内では、日本のレベルの高さを感じることができました。「日本のバス施策はまだまだ」と言われることもありますが、これらの部分の強みを実感できました。今回の視察で得た知見と日本の強みを組み合わせて、より良い取組み検討に活かしていきたいです。
榎本 慎也
ENOMOTO Shinya
計画系部門
事業創生グループ




