新しいオフィス環境づくりプロジェクト
近年、「働き方」にまつわる議論が尽きません。価値創造と知的創造を支えるオフィス環境とはどんな空間、どんな機能を備えたものなのか。コロナ禍で一気に広がりをみせたリモートワークなど、私たちを取り巻く環境は大きく様変わりしています。
CFKも他人事ではありません。社員がどこで/どのように働くのか?オフィスで何を所有/シェアすべきなのか?地域コミュニティや文化、アートとの関係性をどう考えるか?といった観点で議論を交わし、オフィス環境の変革を通じて、CFKにとって理想的な働き方を実現するプロジェクトに取り組んでいます。そのため、2021年夏から外部パートナーである株式会社ロフトワーク、建築デザインユニットetoa studio、株式会社飛騨の森でクマは踊る(Hidakuma)を交えて、若手・中堅社員と共にタスクフォースを結成し、議論を重ねています。
CFKが模索する「これからの時代の建設コンサルタント」に求められるオフィス環境に関する中間報告を対談形式でお伝えします。
左から順に
林 哲生(計画系部門)
杉嶋 敏夫(代表取締役 副社長)
中矢 昌希(社会インフラマネジメントセンター)
小島 和人(株式会社ロフトワーク / プロデューサー)
求められる「プロジェクト志向型」の建設コンサルタント
中矢:本プロジェクトの始まりは、2020年夏頃にCFKの常務取締役から「建設コンサルタントの創造性を支えるオフィス環境を考えたい」と相談があったことでした。そこで、大阪本社は私、東京本社は私の1つ上の先輩が推進幹事となり、部門横断でタスクフォース(部門長推薦+自薦)を結成することとしました。CFKは設計系の技術者が社員の約4割を占めますが、今回のプロジェクトは全社的な取組とするため、調査系や計画系、事務系の部門からもメンバーを募ったところ、総勢21名となりました。林は推進幹事の若手リーダーを務めています。
杉嶋:大きなプロジェクトに取り組むのであれば、専門家の客観的なご意見も必要と考えて、社外パートナーとしてロフトワークさんにお声がけしたんですよね。
小島:僕はロフトワークという会社で、共創空間づくりをはじめ、人を介在させながらトランジション(移り変わり)を起こす仕事をしています。今回のCFKの新しいオフィス環境づくりプロジェクトではプロデューサーとして全体を見ながら、ロフトワーク京都オフィスのディレクター、ロフトワーク東京オフィスで空間づくりを手掛けているレイアウトチーム、そして岐阜県飛騨に設立したグループ会社で木材の活用や森林保全に取り組む「飛騨の森でクマは踊る」のメンバーにも関わってもらい、多角的な視点からCFKらしいオフィス環境のあり方を考えてきました。
まず最初に議論したのが、CFKが目指す建設コンサルタント像です。キーワードとして挙がったのが「プロジェクト志向」でした。
杉嶋:CFKは2019年から経営方針の一つとして、「プロジェクト志向」を提唱しています。本来であればプロジェクトリーダーがプロジェクトの目的から「どんな仕事をしたいのか」「どうありたいのか」を整理していくべきです。しかし残念ながら我々の仕事は、クライアントが細分化した仕事を受けるケースが多いという実情があります。構想から加わる計画系部門はまだしも、設計部門は設計法まで決められてしまっているわけです。
そのため、「そもそもプロジェクトの目的は何だったのか?」という観点に問いが発せられないまま事態が進んでしまう場合があります。そこまで考えなくても仕事はできるんだけれど、与えられた目的や方法が実は間違っている可能性もあるわけです。だから僕は仕事の上流からかかわることのみならず、各々の段階のアプローチの一つとして、社員に「プロジェクト志向」を持っておいて欲しいと思っています。
小島:何かしらお題が提示された時、常識や前提を疑う目を持つことが大切。「プロジェクト志向」を持った人材のイメージは、議論の初期段階で丁寧に擦り合わせましたね。
「あわい」の時間と空間が、CFKらしい価値観を醸成する
小島:2021年の夏からワークショップやフィールドワーク、アンケート調査などを重ね、CFKらしい働き方やオフィス空間について考えてきました。実際、参加されてどうでした?
林:タスクフォースの中で初めて会話をする社員もいたのですが、それぞれの考えやその背景を知ることができ、新たな気づきや発見をたくさん得ました。ワークショップのように自分の気持ちを話せる環境があるっていいですね。一緒に参加した人とは、日常業務に戻った後もお互いのことを話すようになりました。
中矢:オフィス以外の環境から気づきを得るため、神戸の街を散策するフィールドワークも実施しました。六甲山を見ながらみんなでご飯を食べて、仕事のことを話して、「あぁ、働くっていいな」と改めて思いましたね。
フィールドワークの模様はコチラ
『会社員の私たちと、普段着の私たちを共に楽しませよう!
―実現したいワークスタイルを探る、神戸ショートトリップ。』
小島:今のお話を聞いていると、生産性を上げるためには、オフィス環境を整えるだけではなく、学びを提供することも求められているのかもしれませんね。
杉嶋:リモートワークの時代だからこそ、「来たくなるオフィスづくり」が必要です。僕が若い頃は、一人で集中できるスペースが欲しいと思っていました。
中矢:ワークショップでも若手から「一人の空間・時間がほしい」との声が出ていましたね。グッと集中したい時に使えるとか、寝たいとか(笑)。それは決してサボりたいということではなく、オン/オフを分けて生産性を上げるための希望でした。
林:個人的にはリモートワークも併用していますが、便利なツールがあり、コミュニケーションも取りやすい点で、オフィスで働くことも魅力的です。でも、集中する・誰かと話をする・息抜きをするというそれぞれのシーンで求める環境は異なるので、働く場所を選ぶことが許容される雰囲気が醸成されると嬉しいです。
小島:オフィスを社外やまちに「開く」という話も出ていました。その辺りについてはどう考えていますか?
中矢:外部からの刺激はどんどん取り入れていきたいです。でも、取組のスタートはまず社内からと思っています。例えば、若手が「杉嶋副社長ってどんな人なんだろう」と思っても、わざわざそれだけのために話にいくのは気が引けますよね。理想を言えば、何となく喋っているうちに人柄が滲み出て、お互いのことを知っていく。そして、「新しい案件の適任者は誰かな」と考えた時に、ふとその社員の顔が浮かぶ。そうした環境づくりを大事にしたい。
だから目的や用途を限定せず、「あそこに行けば面白い情報がある」「誰かと話ができるかもしれない」と思えるスペースが社内のあちこちにあるといいですね。そこに杉嶋さんおすすめの一冊が置いてあれば、それを読むことで話のネタになったり人柄を知れたりする。そんな小さなきっかけをたくさん作っていけたらいいんでしょうね。
小島:仕事とプライベートをスパッと分けるのではなく、「あわい」の場所が大事ってことですね。
中矢:まさに。働き方に関する制度やルールも大事かもしれませんが、それより林も言ったような雰囲気をつくりたいです。多くの時間を一緒に過ごすことも大事ですが、必ずしもそれだけではない。今回のプロセスを見ていると、10回の飲み会よりも一緒に汗をかいて議論する数回のワークショップの方が強いつながりを生む。エンパシーを感じることが、関係性を豊かにすると実感しました。
CFKの強み「チーム力」を発揮できるオフィスとは?
小島:ロフトワークは様々な企業のオフィス空間づくりのプロジェクトを伴走させていただくばかりではなく、3Dプリンターやレーザーカッターなどを設置したものづくりカフェ「Fab Cafe」を運営しています。その中で、「自分達らしい空間とは?」を明確にする必要性を痛感してきました。「CFKとは◯◯である」と言葉に出して言わなくても滲み出る状態を作ることで、若い人や新しい人の流れが生まれます。つまりオフィスを作ることは、トランジションをデザインしていくことだと捉えています。
中矢:そうですね。私たちも「カフェみたいなオフィス」「ホテルラウンジみたいなオフィス」は求めていません。最初から「どんなオフィスが最もCFKらしいか?」をブレずに追い求めています。
小島:その中で「チーム」というキーワードがワークショップやフィールドワークの中で何度も出てきました。参加された社員の皆さんは当事者意識が高く、自分ごとになっているのも印象的でした。
中矢:社是である「誠実・明朗・団結」をベースとして、多くの社員が「世の役に立ちたい」というシンプルかつ明確な想いを共有しているからかもしれません。調査・計画・設計・維持管理などそれぞれ専門領域は異なりますが、CFKは総合建設コンサルタントです。「チーム」で仕事をするのが一番強いと日々感じていますし、社員約500人の規模感だからこそ、よりチーム力を発揮しやすいのでしょう。
林:働き方に関するアンケート調査をした際にも、想定以上の協力がありました。第1回のワークショップ前にアイデア募集した際には約60票、第2回ワークショップ前に実施した勤務時間や仕事内容の調査では約200票の回答がありました。短期間での収集でしたが、タスクフォースの皆さんも迅速に対応してくださり、回答数も伸びてポジティブな反応が嬉しかったです。
小島:それは嬉しいですね。プロジェクト全体を通した変化はありますか?
中矢:ワークショップに参加した社員は、自分の部門で内容を展開してくれています。それに対して、部門のメンバーが私たち推進幹事にフィードバックを返してくれることもあります。自分ごとから周りに広げている姿が増えるなど、少しずつ変化を感じています。
働き方とは「手法」ではなく「姿勢」である
小島:今回のワークショップで出た意見やアイデアをもとに「CFK WORK STYLE PLAY MAP」を作成しました。改めて見直してみて、気になることややりたいことはありますか?
林:一番やりたいのが「チームキャンプ」です。第1回ワークショップで出たアイデアで、プロジェクトの立ち上げ時やコンペ・プロポーザルに挑む際のキックオフミーティングは、1泊2日ないしは2泊3日で集中的にやったらいいんじゃないかって。朝は座禅をして、日中にディスカッション、夜は美味しい料理を食べて温泉に入るのもありなんじゃないかと。
中矢:チームビルディングにもなりますよね。「集中できる場所が欲しい」と出ていた意見は「ソロダイブ」という形になりました。でもじっくり話を聞いていくと、「集中はしたいけど、ずっと一人で居たいわけじゃない」という意見も出てきて。作業をしているけれど話しかけても良い場所として「タムロする」や「アイマイタイム」を設けて、グラデーションをつけています。
また、オフィスを社外にも広げていきたいという願いは「まちの人と共に過ごす」として表現しています。もともと東京本社は会議室を外部の人も利用できるよう整えているんです。そこにCFKの活動を活性化するための仕掛けを、より取り入れていきたいですね。
小島:様々なプロセスを通してCFKらしいオフィスに求められていることが見えてきました。最後に「CFKのこれからの働き方」とはどのようなものか、今考えていることをお聞かせください。
中矢:今はリモートワークやICT活用などが話題ですが、働き方を左右するのは「手法」じゃなくて「姿勢」「マインド」だと思うんです。若手の仕事をサポートする際に言っているのが「できる/できない」で判断するのではなく、面白そうならやってみたらいいんじゃないってこと。「みんなで考えたらできるかも」「間違いなく世の中に必要だよね」といった思考を行動に移せる「姿勢」こそがCFKらしい働き方だと思います。一人ではなく「チーム」の力で実現していく。そうした姿勢を後輩に継承していきたいし、CFKらしい「姿勢」でいたら自ずとそれを実現できる「手法」を具体化できるのではないでしょうか。
杉嶋:そうですね。中矢の言うことにも通じますし、「プロジェクト志向」にも繋がるのですが、大切なのは問題の本質を掴むということ。本質は抽象的なかたちで把握されるのだけど、具体のことだけではなく物事を抽象的に大きく捉える視点は大切だと思います。そんな営みを支援するうえで、設えの面ではどうあれば良いのでしょう。一人ひとりがどんな働き方を求めているのか、どんな能力を伸ばしたいと思っているのかをもっと知らないといけないと議論しているところです。そうしたことも考えながら、引き続き働き方やオフィス空間について考えていきたいですね。