行動が変化し、会話が生まれる。社員が共に作る新しい屋上空間
CFKは、現在、「新しいオフィス環境づくりプロジェクト」で、屋上と8階中庭をリノベーションして、⼟⽊界にインパクトを起こすような新しい都市の緑地の形を模索しています。
今回は、ランドスケープ・アーキテクチャー(緑地学)を専⾨とする増⽥昇先⽣(⼤阪府⽴⼤学名誉教授)、本プロジェクトの外部パートナーである住友恵理さん(建築デザインユニット etoa studio 代表)をお招きして、社員と共に語り合いました。
3名の社員がそれぞれ屋上や中庭でチャレンジしてみたいことについて、増⽥先⽣と住友さんとのディスカッションを通じて掘り下げながら、活動のアイデアの種を⾒つけ、ブラッシュアップしていきます。

谷浦 拓馬(環境・防災系部⾨ 環境グループ)
増⽥ 昇(⼤阪府⽴⼤学名誉教授、LAまちづくり研究所所長)
⼭本 琢⼈(計画系部⾨ 交通計画グループ)
下段左から順に
塩⾕ 歩未(環境・防災系部⾨ 環境グループ)
住友 恵理(etoa studio 代表、東京⼤学学術専⾨職員)

いかに⾒える化して、⾏動変容につなげるか
住友︓屋上と8階中庭の空間は、CFKさんが建設コンサルタントのお仕事をされる上で、実験的・先進的な取り組みを進めていく場所にしたいと伺っています。まずは皆さんが⾏いたい活動について聞かせていただけますか︖

環境・防災系部⾨ 環境グループ
⾕浦︓私は普段、 動植物関係の業務を担当しており 、インフラ整備事業による改変区域から動植物を移動・移植する業務を⾏ うこともあります 。その中で、事業による保全対象にはならなかった希少動植物を保護・飼育する区域を、8階中庭に作りたいと考えています。そこで飼育⽅法や⽣態などのノウハウを蓄積すれば、今後の業務にも活⽤できます。
⽅法としては、⽔槽やプランターを並べるのではなく、ビオトープを作って飼育したいと思っています。周辺の⿃や⾍といった⽣物も誘引して、オフィス内に⼩さな⽣態系を作れたらいいなと。さらに、周辺の⼩中学校の⼦どもたちへの環境学習を⾏うことで地域貢献にもつなげたいと考えています。

環境・防災系部⾨ 環境グループ
塩⾕︓私は、これから業務として展開していきたいグリーンインフラについて、実際に⾃社の屋上で導⼊・維持管理を⾏って、設備・製品別の導⼊効果やデメリットを検証し、業務提案に⽣かしたいと考えています。基盤によって⾬⽔浸透能⼒に差があるのはもちろん、⽣育に適した植栽も異なると思いますので、基盤を変えた複数のエリアを設置して検証したいですね。せっかく⾬⽔を溜めるなら、⾬⽔そのものの利活⽤にも取り組んでいきたいです。

計画系部⾨ 交通計画グループ
⼭本︓僕は緑化において⼀番の課題はメンテナンスだと感じています。管理がうまくいかなかったり、後から予算削減のターゲットにされてしまったりする場合もあるので、そこに対してコンサルとして解決策を提案できないといけないなと。
そのためには、緑があることで⼈間の癒しやリラックス、クリエイティビティに効果があると体験できることや、その効果を定量的に評価することが必要です。また、定量化するだけでなく、緑に関⼼を持つ⼈を増やすのが⼀番重要だと思います。緑の良さをどう評価して発信するか、⼀緒に体験する場をどうやって作っていくか、まずは社員という⼩さなコミュニティでチャレンジしてみて、そこで学んだプロセスを社外でも⽣かしていきたいですね。
増⽥︓どれもとても良い取り組みだと思いますよ。ただ、環境問題で難しいのは、⽬に⾒えないということ。例えば、緑が⼈間にもたらす効果や⾬⽔貯留の効果を、いかにして⾒える化するのか。そこを意識しながら展開していくことが重要です。
住友︓⾒える化するために、具体的にどんな⽅法がありますか︖
増⽥︓やっぱりDXだと思います。ICT技術をいかに活⽤するか。例えばメンテナンスの話なら、⼟壌⽔分センサーと灌⽔システムを連携させると、どれくらい⽔の消費を節減できるのか。あるいは、動体検知カメラをビオトープに設置しておいて、⿃が⾶来したら撮影してデータロガーに保存しておくのも⼀つの⽅法です。今はセンシング技術がかなり⾼度かつ安価になっているので、うまく組み合わせて⾒える化していくことが⼤事だと思いますよ。

etoa studio 代表、東京⼤学学術専⾨職員
⼭本︓緑の効果はどうやって⾒える化できるでしょうか。僕は「⼈がどう思うか」に関⼼があるんですけど、アンケート調査を⾏ってもあまり⾯⽩い結果が得られない気がするんです。
増⽥︓アンケート調査はバイアスがかかりますからね。私は「⾏動がどう変化するか」が⼤事だと思うんです。休憩時間に屋上に⾏く⼈の⼈数が増えたとか、滞在する時間が⻑くなったとか、⾏動価に置き換えると⾒える化しやすいですよ。
住友︓⿃がいるから⾏こうとか、居⼼地が良いから⾏こうとか、何か⾏動が誘発されるような屋上になるといいですよね。
増⽥︓最近は教育の分野でも、いかにして⾏動変容を誘発するかが重視されています。⾒える化する際も、どれくらい⾏動変容につながったかという観点で調査すると⾯⽩いと思いますよ。
住友︓社員の皆さんの⽇々の⾏動がどのように変化していくか。屋上に限らず、オフィスリニューアル全体としても⼤切なことですね。

⼤阪府⽴⼤学名誉教授、LAまちづくり研究所所⻑
増⽥︓屋上に興味を持って⾏動する⼈が増えてきて、最終的には社内に緑化クラブができるといいですよね。
⼭本︓まさに今、社内で園芸部を作ろうとしているんです。
増⽥︓社内の各課が競い合って、 ⾥⼭郷⼟種の ポット苗の栽培に取り組んでいる会社さんもあります。そうやって社内で波及していけば、地域の⼈たちに普及啓発する時にも⼀つのツールになりますしね。
淀川と連携し、自然の息吹を呼び込むビオトープ

増⽥︓⾕浦さんは、1つの種にこだわるというよりも⽣態系全体を復元したいと考えているんですよね。この近辺には柴島浄⽔場、その向こうには淀川がありますから、⽣態系のネットワークも含めて考えると良いと思いますよ。淀川の河原との関係性を調査できると⾯⽩いですね。例えば、淀川にいる⽔⽣昆⾍が屋上や中庭でどれくらい⾃然再⽣するのか。
⾕浦︓なるほど︕ぜひやってみたいです。
⼭本︓淀川っていうキーワードは新⼤阪ならではですね。
増⽥︓あれほど豊かな⾃然が都⼼部を貫いているのは、⾮常に⼤きな環境資産です。淀川とどう連携していくか、⾃然の息吹をどう呼び込むかが⼤事だと思いますね。
⾕浦︓少し懸念していたのは、⽔⽣昆⾍が8階の⾼さまで上がって来られるのか……。
増⽥︓⾶翔⾼度の問題ですね。ある程度の壁⾯緑化がされていると、 それを伝って 下から上がって来られます。

住友︓今も1階から8階まで⼀部分が緑化されているので、できそうな気がします。
増⽥︓垂直移動が誘発できるような形で緑化を考えていくと良いと思います。もう⼀つは、上から⾒える⾯積をいかに⼤きくするか。⽔⾯が⾒えると野⿃が認識するので、極端に⾔うと 中庭の 3分の2くらい使ってみても良いですね。あとは、⼈の出⼊りが頻繁になると⽣物が警戒しますから、⼈の出⼊りをある程度抑制することも必要ですね。
住友︓そもそも中庭の位置づけをどうするかを、他の機能との関連も含めて考えないといけないですね。個⼈的には、中庭は8階に上がってすぐの「顔」みたいな場所になるので、⼈がワイワイいるのも良いんですけど、⼈がいなかったとしても美しい中庭というか、⾃然や屋上の気配を感じられるといいなと思うので、ビオトープをメインにするのも⼀つの⽅向性だと思います。
増⽥︓なぜそんな話をしたかと⾔うと、中庭は四⽅がガラス張りで視線があるから、⼈が気持ちよく佇めるスペースではない気がするんですね。どちらかというと、⼈が室内から⾒るベースの空間だと思うんですよ。だから⽣態系の豊かさを⾒せる場だと考えて、階段からビオトープを眺めつつ屋上に上がるような形だといいんじゃないかな。


⼭本︓1階の外構も変えるじゃないですか。そこにも⽔があって、だんだん上に上がっていって屋上の⽣態系とつながる、「上にのぼる休憩スペース」みたいな感じかなと。
増⽥︓1階、壁⾯緑化、8階の中庭や屋上に、どんな名前をつけるのか、ネーミングがものすごく⼤事やね。会社のCIとしても使えますし。オフィスリニューアルでせっかく投資するわけですから。
あとは、最近の⽣態系保全は遺伝⼦の混合すらしない、同じ場所で採れた種⼦で緑化回復するのが原則になっているので、希少種だけにこだわらずに、何でもない種に着⽬するのも⾯⽩い。希少種でないものの苗⽊⽣産はなかなかされていないので、種を預かって発芽させて、また現地に戻すことをしている企業は、⽇本でも1社か2社しかないんです。
⾕浦︓CFKの業務として、希少種の種を持ち帰って 屋上で 発芽させ、別の場所に移植することはやっていたようですね。
増⽥︓希少種に限らず、淀川の河原などを⾃然の回復⼒でいかに再⽣していくか、そこに取り組むのもいい。例えば1週間に1回、決まった場所で写真を撮って定点観測すると良いですよ。ずっと変化していきますから、3年経ったらすごく興味深いデータになります 。
⾕浦︓なるほど。それをまとめて広報にも使えそうですね。
増⽥︓管理⼿法の改善にも使えます。
エディブル・ランドスケープへの転換

住友︓今回のリニューアルでは、アクアポニックス(⽔耕栽培と養殖を掛け合わせた循環型栽培)やエアロポニックス(空中栽培)といった新しい技術を取り⼊れて、屋上菜園を設けたいと考えています。屋上菜園のあり⽅についてもご意⾒を聞かせていただけますか︖
増⽥︓有⽤植物で緑化するというのは、⾮常に先進的な取り組みだと思います。私も近年はエディブル・ランドスケープへの転換をよく提案していますね。やはり21世紀は⾷糧と⽔の危機が⼤きな問題ですから、どんな場所でも⾷糧⽣産できることが重要です。2025年の⼤阪・関⻄万博でも、各家に1台ずつ冷蔵庫くらいの⼤きさの植物栽培装置があるという未来⽣活像を⾒せようとしているんです。地球儀型のアクアポニックスの屋外展⽰ も提案しているところです。
住友︓CFKさんの屋上で栽培するならどんな作物が良いでしょうか︖
増⽥︓⽔耕栽培を本格的にやってみるなら、トマトやイチゴといった果菜類ですね。養液栽培なら葉菜類はほとんど何でもできますよ。⼤きく育てるのはなかなか⼤変ですが、ベビーリーフの段階で収穫すれば⼤丈夫です。それをお昼休みにサラダで提供してみるとかね。自然は⾷べるっていう⾏為から理解するのが⼀番早いですから、⼤いに楽しまれたらいいと思います。
住友︓1階にキッチンカウンターを設ける予定なので、そこでサラダバーとかできるといいですね。ちなみに、中庭の階段の⼿すりを利⽤してホップを栽培して、オリジナルのビールを作ることも考えているんです。
増⽥︓もしホップを栽培するなら、周辺のビルも巻き込んで展開して、「東淀川ビール」みたいな地ビールを作るのも⾯⽩いですよね。
住友︓すごくいいですね︕
増⽥︓あとは、屋上の空調設備のエリアが全く使われていないですけど、あのスペースに簡易栽培システムを導⼊すればサツマイモを栽培できます。空調スペースを緑化すればかなり室外機の効率が上がり熱負荷低減につながると思います。⼿⼊れも簡単ですし、栽培袋1つあたりにサツマイモが5〜6個できますよ。
塩⾕︓そんなにたくさん︕お芋パーティーができますね(笑)。
増⽥︓サツマイモの葉っぱや茎を発酵させて、メタンガスを回収することも可能です。
塩⾕︓今まさに、私が所属しているグループで脱炭素エネルギーに挑戦しているんです。
増⽥︓空調スペースでそういった最先端の実験もできると思いますよ。ここまで気候変動の話があまり出ていなかったですが、グリーンインフラに取り組むなら暑熱環境も併せて考えると良いと思います。
塩⾕︓おっしゃる通りで、最近はアセスメントにおいてもヒートアイランド対策の評価が求められることが多いです。ただ、保⽔性舗装にした時にどれくらい気温が下がるのかというデータがまだあまりなくて……。
増⽥︓WBGTという暑さ指数で評価すると良いと思います。WBGT測定器を使えば、効果がどれくらいあったのかを⾒える化できますよ。

原点はなにわ商人?屋上緑化と大阪らしさとは
増⽥︓なにわ商⼈の船場の屋敷の⼀⾓には、必ずお稲荷さんがあったんですね。そこをビルにする時に、お稲荷さんだけを屋上に移すわけにいかないから、お稲荷さんの周りを緑化した。それが⽇本版の屋上緑化の始まりなんです。
住友︓なるほど、⾯⽩いですね。CFKさんも⼤阪の会社なので、⼤阪らしさも今回のリニューアルの⼀つのキーワードになるかもしれません。
増⽥︓やっぱり⼤阪でやるなら、⼈との関わりとか、⼈がどう楽しむかが⼤切だと思うんです。あまり実験場だとか理念ばかりが先⽴ってしまうよりも、そのほうが良いと思いますよ。
住友︓そういう意味でも、社員の⽅⼀⼈ひとりがどう関わっていくかが重要になってくるのかなと思います。今⽇のお話の中で、何かアイデアは浮かびましたか︖
⼭本︓例えば、社内の定期研修を屋上でやるのも良いなと思いました。まずは研修から始めて、打合せとかで使うのはセカンドステップで。
増⽥︓「どんな野菜を植えてみたいですか︖」とか「どんなネーミングが良いと思いますか︖」とか、皆さんに聞いてみて参加を促していくのも良いと思いますよ。あとは、SNSで屋上の様⼦を配信するとか。
⾕浦︓増⽥先⽣がおっしゃっていたようにカメラを設置して、社内掲⽰板などで「今⽇はこんな⿃が来ました」とか発信できると良いですよね。そうやって少しずつ屋上を親しみやすい場所にしていけたら、印象も変わってくるかなと思います。
塩⾕︓「野菜を育てよう」と⾔われると、たぶんハードルが⾼いと思うんですよ。でも「野菜を育てているので、⾷べたかったら摘みにおいで」って⾔ったら、来てもらえるんじゃないかな。そこから「育てるのもやってみようかな」という⼈が増えてくるかもしれない。ちょっとメリットがあるような催しで、1回⾜を運んでもらえるといいのかなと。
増⽥︓試⾷会をやると良いですよ。私がやっている植物⼯場も、学内であまり周知されていなかったので、パンを持って来てもらって⼯場野菜で サンドイッチを作る会をしました。
塩⾕︓サンドイッチ会、楽しそうですね︕「パンだけ持っておいで」って⾔って、みんなで集まって話しながら、サンドイッチを⼀緒に作って⾷べて。
増⽥︓⼤阪の⾷⽂化は、会話なんです。お店に⾏くと店員さんも板前さんもみんなしゃべってくれるでしょう︖「会話付き⾷事」が⼤阪らしさだと思うんです。
住友︓オフィス空間全体としても、会話は⼤事なキーワードですね。社内で今まで以上に会話が⽣まれたり、皆さんの⾏動が変化したりするようなオフィスリニューアルを⽬指していきたいですね。

オフィス環境づくりの紹介

オフィス環境づくり02:
社内外の共創を生み出すには? 対話を通して空間や仕掛けづくりを考える
社内外の共創を生み出すには、どんなオフィス環境や働き方、マインドが求められるのか。現状における課題や目指すべき方向性を外部パートナーを招いて語り合います。

オフィス環境づくり04:
大阪中津・西田ビルに学ぶ、自社オフィスを通じてまちを良くしていく覚悟
地域に開かれたオフィスビルを目指し、そのヒントを求め総合ローカルカルチャー施設・西田ビルを訪問。ビルオーナーの西田工業(株)の宇田川さんと、さまざまな取り組みを仕掛ける東邦レオ(株)の久米さんと語り合い、これからのCFKのあり方を模索します。

オフィス環境づくり05:
リサーチから見えてきた、わたしたちの未来の作り方
リサーチに参加した若手社員と、本プロジェクトの外部パートナーである(株)ロフトワークの服部木綿子氏が、各地でどんな気づきを得たのか、今後のプロジェクトや自身の働き方にどう生かすのかを語り合います。

オフィス環境づくり06:
本音を話すことからはじめよう。部門を超えた同世代の繋がりづくり。U35ワークショップ「喫茶シランケド」
自分たちの未来を自分たちの力でつくっていくために、U35世代の社員が自分たちの働き方の現状と理想を語り合うワークショップを企画、開催しました。

オフィス環境づくり07:
これからの仕事と働き方を、私たちが作っていくために。U35「価値創造を噛み砕くロジックモデルワークショップ」
35歳以下の若手が主体となり、U35「価値創造を噛み砕くロジックモデルワークショップ」を実施。会社が掲げている中期経営計画(2022-2024)を自分たちなりに噛み砕き、CFKの未来を考えます。

オフィス環境づくり08:
『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』著者・三宅香帆さんと考える、CFKらしい「オフィスの本棚」
書籍『なぜ働 いていると本が読めなくなるのか』の著者・三宅香帆さんをお招きして、「オフィスの本棚」のあり方や運用方法について考えるワークショップを開催しました。

オフィス環境づくり09:
まもなくリニューアル。生まれ変わったオフィスを自分たちらしく活用するための手引きを作ろう
2025年3月末の第1期リニューアル完了を目前に控え、CFK社員が新オフィスを活用していくためのハンドブックを制作中です。