オフィス環境づくり04:大阪中津・西田ビルに学ぶ、自社オフィスを通じてまちを良くしていく覚悟

まちに開き、地域と溶け合うオフィスビルを育てるには

CFKが拠点を構える新大阪エリアは、リニア中央新幹線の全線開業に向けて、これから大きく変化していく地域。CFKが現在進めている「新しいオフィス環境づくりプロジェクト」では、変わりゆく新大阪のまちづくりの起点となるような、地域に開かれたオフィスビルを目指しています。

今回は、そのためのヒントを求めて、プロジェクトメンバーが大阪・中津にある総合ローカルカルチャー施設・西田ビルへ。ビルのオーナーである西田工業(株)の宇田川鎮生さん、西田ビルを地域に開くさまざまな取り組みを仕掛ける東邦レオ(株)の久米昌彦さんと語り合いながら、まちに開くこれからのCFKのあり方を模索します。

西田ビル オフィシャルサイトはこちら:https://nishidabld.com/

左から順に
久米 昌彦(東邦レオ株式会社)
宇田川 鎮生(西田工業株式会社 取締役/企画部部長)
末 祐介(総合技術本部 社会インフラマネジメントセンター)
服部 木綿子(株式会社ロフトワーク クリエイティブディレクター)

変わりゆくまちの中で、地域の企業に何ができるか

末 祐介
総合技術本部 社会インフラマネジメントセンター

末:今進めているオフィスリニューアルでは、CFKの1階や屋上を地域に開いて、新大阪のまちづくりに関わる人たちの拠点となるような、地域貢献の場にしていきたいと考えています。同時に、それが社員の刺激にもなって、地域とつながりを持ちながらまちづくりに携わっていける人材を育てていければという思いがあります。

服部 木綿子
株式会社ロフトワーク クリエイティブディレクター

服部:私たちロフトワークは、2021年夏から外部パートナーとして本プロジェクトに携わってきました。今日は西田ビルの取り組みについてお話を伺いながら、今後のプロジェクトの方向性を展望できればと思っています。宇田川さんはCFKさんの元社員で、末さんと一緒にお仕事をされていたんですよね。

宇田川 鎮生
西田工業株式会社 取締役/企画部部長

宇田川:そうなんです。CFKを退職して西田工業の経営陣に加わることになった時、末さんから「地方で生きていくなら公民連携というキーワードが重要」とアドバイスをいただいたことをよく覚えていますね。

そんなことも念頭に置きながら、2016年に都市経営プロフェッショナルスクールというものに参加して公民連携事業の構築方法を学び、その内容を福知山市の副市長に勝手に報告しにいったり(笑)、福知山のシャッター商店街でマーケットをやったり、地域と自分、地域と企業の距離感を肌感覚でつかんでいきました。その経験を経て、西田工業が大阪中津という地域の中で何をすべきなのかを模索していきました。

最初に整備したシェアオフィス「Creative Quarter Nakatsu」

服部:西田ビルは、コミュニティ型コワーキングスペースやシェアキッチン、クラフトビールの中津ブルワリー、グランドフロアをまちに開いた「ハイパー縁側」の活動など、ユニークな取り組みをたくさんされていますが、どういった経緯で始まったのでしょうか。

宇田川:ビルの老朽化が進んで空室もある中で、シェアオフィスとして区画を小さくすれば借り手が見つかるんじゃないかと、2018年に2階にシェアオフィスを作りました。西田工業は建設業なので、作るまでは早かった。ですが、作ったはいいが誰が入るんだという話になって。

服部:人が集まるにはハードとソフトの両面が必要ですが、西田ビルの場合はハード先行だったんですね。

宇田川:ハードができるのと並行して、地域に開くことの必要性についても議論はしていました。中津は、大阪都心を大きく変えていく「うめきた再開発」に隣接するエリアですから、これからまちが変わっていく中で、地域の企業としてやるべきことがあるんじゃないかという思いがあって。西田工業は1909年に京都府福知山市に本社を置いて創業した会社ですが、中津に拠点を構えて約80年の歴史があります。でもこれまでは、地域との関係は全く築けていなかったんです。

「閉じた」印象を変えるために、人の動きを作る

服部:地域に開くために、まず何から始めたんですか?

宇田川:開こうという意思があっても、これまでの「閉じている」印象があるので、なかなか人が来ないんですね。そこで、2階のシェアオフィスで、月2回必ずイベントを行うことにしました。公民連携に関する内容をはじめ、地域の人も社内の人も参加できるように、さまざまなジャンルの勉強会や、1年間にわたり月2回イベントを企画しました。最初は会社から理解を得ることも難しく、予算ゼロからのスタートでした。

服部:試行錯誤を重ねる中で、ターニングポイントとなった出来事はありましたか?

宇田川:1番のターニングポイントは、2階の工事をしている最中に、東邦レオさんが訪ねてきてくれたことですね。

久米 昌彦
東邦レオ株式会社

久米:中津を歩いてみて回っていた時にたまたま西田ビルの空室募集の張り紙を見つけて、東邦レオの社長である吉川と僕が飛び込みで見学に来たんですよ。吉川はもともとライフスタイルの領域で仕事をしてきた人間で、これからのライフスタイルの中心は中津に移ってくる、中津がこれから面白くなる、という直感があったらしくて。

末:エリアとして注目されていたんですね。西田ビルを初めて見た時の印象はどうでしたか?

久米:このビルのグランドフロアが、いわゆるオープンスペースに見えたんです。当社は、公園や屋上緑化といったオープンスペースの植栽管理を通じて賑わいを創出することに取り組んできたので、ここで何かできそうだという予感がありました。ただ、オープンスペースだけでは事業が成り立たないので、建物の中で収益を生みながら、その収益の一部を使って外に賑わいを作り出していこうと考えました。

服部:今は3階のコワーキングスペース「Laugh Out 」と、グランドフロアにある「中津ブルワリー」と「ハイパー縁側」を、東邦レオさんが運営されているんですよね。

久米:そうです。外に賑わいを創出することが、僕らが1番やりたいことなので、まずグランドフロアのリノベーションのプランをご提案しました。その後、3階の「Laugh Out Nakatsu」と「ハイパー縁側」をほぼ同時期、2018年にオープンしました。

服部:「ハイパー縁側」について、詳しく教えていただけますか?

久米:最初は、このグラウンドフロアをリノベーションして、柵を取り払って道路からアクセスしやすい状態にすれば、自然に人が溜まる場になるだろうと思っていたんです。でもオープンして2週間経っても誰も来ないので、これではダメだなっていうことで考えたのが「ハイパー縁側」です。「ハイパー縁側」は場所の名称であり、イベントの名称でもあります。イベントは、まちの人の生き方をみんなで聞くトークセッションが中心で、平日の18時~19時に開催しています。入場無料で、いつ来ていつ帰ってもOK。ゲストが次のゲストを紹介するスタイルで、これまで280回以上続いています。

ハイパー縁側@中津 の詳細はこちら: https://hyper-engawa.com/nakatsu/

末:入場無料ということは、イベントで収益を得ようとは考えていないんですね。

久米:外で賑わいを作って人に来ていただくことで、コワーキングオフィスのメンバーになってくれたり、ビールが売れたりして売上につながって、その原資を使ってイベントを行う、という考え方ですね。

服部:継続するコツはありますか?自然と続けられているんでしょうか。

取材日、クラフトビールを飲みに西田ビルに立ち寄っていたオレゴン州ポートランドからの新婚旅行者

久米:そうですね。しゃべりたい人ってたくさんいるんだなって思いました(笑)。別に大それたプレゼンをするわけでもないし、基本的には雑談なので。僕らがファシリテーターとしてゲストにインタビューして、いろんな人たちが自由に聞ける場を作る。それをまちの記録としてアーカイブに残す。そうやって積み重ねてきた感じですね。
 
末:地域の人たちとはどんなつながりが生まれていますか?
 
久米:例えば「地域の役に立ちたいけど何から始めたらいいかわからない」という人がイベントに来て、ゲストや来場者と出会ったり、僕たちが紹介してつないだりすることはよくありますね。近隣にある福祉会館からの紹介で、イベントに来られる方もいらっしゃいます。「ハイパー縁側」がビルと地域をつなぐ役割を果たしつつあるのかなと感じますね。イベントを行うことが西田ビルを知ってもらうきっかけになり、西田ビルを起点にもっとまちが面白くなっていったらいいなという思いで運営しています。

地域にとっての「風」と「土」の役割

末:西田ビルが中津のまちづくりの起点となっているように、CFKも「新大阪で何かしたい」という面白い人たちが集まってくるような場所にしていきたいですね。

服部:そのためには「CFKに相談したら何か起こりそう」という雰囲気を作っていくことが大切ですよね。その上で、まちから見える場所であるグランドフロアをどう使うかがかなり重要になってくると思います。私自身、岡山や香川でゲストハウスの運営をしていた経験があるんですけど、1階をガラス張りにして、自分たちが何者か、何をしているのかをなるべく見せるようにしていたんです。地域と接点を持つ時に、自分たちを知ってもらって信用を得ることがすごく大事だという実感があります。

久米:1階はやっぱり大事ですね。僕たちは、Lobby Socializing(ロビー・ソーシャライジング)、ロビーを社交場に変えるという考え方や、エースホテル ポートランドのように人々がロビーで滞在するスタイルを意識していて。西田ビルも、1階のロビーやエントランスをもっと面白くしていきたいと計画中です。
 
宇田川:2025年以降にフルリノベーションを予定しているので、乞うご期待っていう感じです。
 
久米:地域に住んでいる人も、働いている人も、子どもたちも来るような、「ビルの中がまちになっている」みたいな形を目指しているんです。建築家の隈研吾さんもプロジェクトに関わっていて、中津の「いこい」という大衆酒場で地域の人たちも一緒になって座談会をするなど、どんなビルが良いのか議論しているところですね。ビル単体ではなく、まちや人と連携しながら進めています。

宇田川:リノベーションのプロジェクトだけでなく、東邦レオさんと一緒にさまざまな実証実験に取り組んでいる最中です。直近では、一般社団法人Creative Responseが運営するソーシャル・イノベーション・スクールの大阪校が、西田ビルで2023年4月から開講する予定です。
 
服部:幅広い取り組みをされていますが、西田ビルにおいては、西田工業さんがオーナーで、東邦レオさんはテナントとして企画や運営をしているという関係性ですよね。お互いの立ち位置についてはどう捉えていますか?
 
久米:「風」と「土」に例えるなら、中津に拠点を構えて約80年になる西田工業さんは「土」。中津で生まれ育った地元の人たちは、もっと「土」ですよね。一方、東邦レオは中津に来てまだ4年ほどですから、「中津ってこういうまちなんだよね」って「土」みたいな顔をしないことが大事だなと思うんです。僕たちは「土」ではなく「風」で、「風」を吹かせたり賑わいを作ったりするのが役割なんです。

ビールの原料となるホップ

服部:CFKさんは新大阪に拠点を構えて約20年ですよね。西田工業さんと比べると日は浅いですが、やっぱり「土」の役割でしょうか。

末:いやいや、まだ全然「土」とは言えないですよ。
 
服部:「土」と「風」の両方の役割をすればいいんですかね。どうすればCFKがまちに開いていけるんでしょうか。
 
末:周辺のエリアで暮らしているのはどんな人たちなのか、今はあまりイメージを持てていないし、隣にある保育所の人たちとも話せていない。リノベーション前の西田ビルと同じように、地域とは没交渉の状態なので、これからまちに開いていく中で役割を見いだしていく必要があるかもしれません。
 
服部:屋上菜園で作ったものを1階で食べられるようにするとか、食をキーワードにして人とつながる場を作るというアプローチもありますよね。

リニューアル計画中のCFKのグランドフロア(イメージ)
リニューアル計画中のCFKのグランドフロア(平面図)
リニューアル計画中のCFKの屋上は、エディブル・ランドスケープを目指している

末:例えば、CFKでホップを育てて、西田ビルに持ち込んでビールを作ってもらって、それをシェアすることで社内外の交流を図れたらいいなと考えています。

久米:いいですね。僕たちのブルワリーは、ホップを通じたコミュニティづくりというコンセプトなんですよ。

末:ちなみにホップの栽培は難しいんですか?

久米:ちょっと手入れが大変なのと、ツルを誘引するために5mの壁が必要ですね。
 
末:1階に植えて、2階か3階までツルを伸ばしたらできそうですね。

久米:それは可能だと思います。ただ、100%フレッシュなホップのみでビールを作るのは、品質や収量の問題があって実は難しいんです。

服部:例えばイチゴとか、ホップではなく何か別のものを育てて、西田ビルに持ち込んでビールにしてもらうこともできますよね。
 
久米:そうですね。イチゴやみかん、黒枝豆をビールにしたこともありますし、そういうご要望はすごく多いんですよ。

服部:自分たちが作ったもので乾杯できるって、やっぱりテンションが上がりますし、社内のコミュニケーションのきっかけになりますよね。

まずはやってみる。そこから化学反応が生まれるのを待つ

末:これまで西田ビルを起点にいろいろな取り組みをしてきて、社員の反応はどうですか?何か変化は感じますか?

宇田川:命令になっちゃうのは嫌なので、「ハイパー縁側に参加してください」とは言っていないんですけど、毎回参加してくれる社員もちらほら出てきていますね。西田ビルのプロジェクトに対しても「面白いことになっていますね」とか「今後はどうなるんですか」と興味を持ってくれる社員が増えてきました。サイレントマジョリティにどう訴えかけるかが肝だと、こっそり思っています。

末:西田工業の本業への効果はどうですか。

宇田川:やっぱりメディアで取り上げられると、お施主さんに知ってもらう機会にもなりますし、面白いことをやっている会社として認知してもらえるので、営業や採用の面で効果は出ていると思います。あとは、建設系のスタートアップの人たちともつながりができて、昨年は建設DXの実証実験を福知山の施工現場で行うことができたので、やっと現場レベルまで落とし込めるようになってきた実感がありますね。

末:そういうことが起こっていく予感はあって、いろいろやってみたという感じ?

宇田川:正直なところ、事前に予測するのは無理じゃないですか。実際は、やってみたらつながっていっただけの話です。何かが起こってから、「ほらね、これを狙っていたんですよ」っていう顔はしましたけど(笑)。

久米:そういうものですよね。化学反応が起きるのを待つ感じ。

宇田川:やらないと何も起きないですからね。

末:2階にシェアオフィスを整備する工事を始めたから、東邦レオさんとも出会ったわけですよね。やり始めたから、いろんな人や企業とのつながりができた。意思を持って、まずやってみることが大事なんでしょうね。

宇田川:そうですね。あとは、プロジェクトのオーナーシップを手放さないのも重要。つい外部の人にお任せしたくなる時もあるんですけど、難しくても試行錯誤しながら自分たちでやっていくことで、当事者意識を持てるので。

服部:自分たちでやるっていうのは大切ですね。さらに、東邦レオさんのように外部から来る「風」的な存在があって、一緒にやるからこそうまくいくんですね。

宇田川:初めに両社の社長が話をして、単なる貸主借主じゃなくて、「このビルを通じてまちを良くしていこう」という西田ビルのポリシーを定めたことも大きかったですね。 

久米:賃貸借契約の第1条には、「甲乙はこのビルを通じて中津を良くしていく」と書かれていますからね。何か迷った時には、そこに立ち返ることができています。

服部:異なる2社が1つのビルに対して、人の気配とエネルギーを感じる場所にするための覚悟を誓い合っているんですね。たくさんのヒントをいただきました。ありがとうございました!

Creative Quarter Nakatsuにて

オフィス環境づくりの紹介

オフィス環境づくり01:
新たな価値創造を支える働き方の実現に向けて

CFKが模索する「これからの時代の建設コンサルタント」に求められるオフィス環境に関する中間報告を対談形式でお伝えします。

オフィス環境づくり02:
社内外の共創を生み出すには? 対話を通して空間や仕掛けづくりを考える

社内外の共創を生み出すには、どんなオフィス環境や働き方、マインドが求められるのか。現状における課題や目指すべき方向性を外部パートナーを招いて語り合います。

オフィス環境づくり03:
地域の生態系ネットワークと呼応する、オフィスと都市の未来

ランドスケープ・アーキテクチャー(緑地学)を専⾨とする増⽥昇先⽣(⼤阪府⽴⼤学名誉教授)、本プロジェクトの外部パートナーである住友恵理氏(建築デザインユニット etoa studio 代表)をお招きし、屋上や中庭でチャレンジしたいことを社員と共に語り合います。

オフィス環境づくり05:
リサーチから見えてきた、わたしたちの未来の作り方

リサーチに参加した若手社員と、本プロジェクトの外部パートナーである(株)ロフトワークの服部木綿子氏が、各地でどんな気づきを得たのか、今後のプロジェクトや自身の働き方にどう生かすのかを語り合います。

オフィス環境づくり06:
本音を話すことからはじめよう。部門を超えた同世代の繋がりづくり。U35ワークショップ「喫茶シランケド」

自分たちの未来を自分たちの力でつくっていくために、U35世代の社員が自分たちの働き方の現状と理想を語り合うワークショップを企画、開催しました。

オフィス環境づくり07:
これからの仕事と働き方を、私たちが作っていくために。U35「価値創造を噛み砕くロジックモデルワークショップ」

35歳以下の若手が主体となり、U35「価値創造を噛み砕くロジックモデルワークショップ」を実施。会社が掲げている中期経営計画(2022-2024)を自分たちなりに噛み砕き、CFKの未来を考えます。

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