
オフィス環境の変革を通じて新しい働き方と価値創造を実現するため、CFKは2021年から「これからの時代のオフィス環境づくりプロジェクト」に取り組んできました。大阪本社の執務フロアの一部と玄関口にあたる1階フロアは、2025年3月末に工事が完了する予定です。
社内外の共有空間である1階には、新しい働き方を促進する仕掛けをさまざま取り入れる予定ですが、そのうちの一つとして、誰もが利用できる本棚を設置します。ただ、オフィスに素敵な本が並んでいても、活用されなくては意味がありません。今回は話題の書籍『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』の著者・三宅香帆さんをお招きして、「オフィスの本棚」のあり方や運用方法について考えるワークショップを行いました。
取材・執筆:藤原朋
写真:小椋雄太
「大切な本」を通じて知る、同僚の新たな一面

秋の気配が感じられるようになった、2024年10月8日。ベテランから若手まで15人の社員が本を片手に抱えて集まりました。この会の発起人の一人であるタスクフォースメンバーの前田翔太(鉄道系部門 地下鉄道グループ)の声かけで、ワークショップがスタート。
「会社の共有スペースとなる1階の本棚をどのようにつくり、運用していくのか、みんなで考えましょうという場を設けました。仕事とプライベートにまつわる『大切な本』を1人2冊持ってきていただいたので、皆さんのいろんな一面も知りながら、本棚について一緒に考えてみましょう」

机の上にそれぞれの大切な本を並べると、部署も年代もさまざまな参加者たちの表情がほぐれ、自然と会話が始まりました。「読書にハマるきっかけになった小説」「仕事にも通じる学びを得たサッカーの戦術書」など、個性豊かな本を数名がプレゼンテーション。仕事をしているだけでは知り得ない同僚たちの新たな一面に触れ、会場の雰囲気が和んだところで、三宅さんによるトークがスタートしました。


ノイズを浴び、自身を拡張するきっかけをつくる
三宅さんは、16歳以上の6割以上が「本を1ヶ月に1冊読まない」という文化庁のデータ(令和5年度「国語に関する世論調査」)を挙げながら、このように語ります。
「以前から、子どもや若者の読書離れがよく取り上げられていましたが、実は大人のほうが本を読めていないことが明らかになってきました。私の著書『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』のタイトルに反応してくださる人が多かったのも、大人の読書について、もっとみんなで語るべきじゃないかというニーズがあったからかなと思います」



三宅さんは、読書の歴史を振り返り、明治から戦後は「本=教養」、戦後からバブル期は「本=娯楽」として共有されていたものの、90年代以降になると教養もエンタメも個人化していったと説明します。
「今は働き方も余暇の過ごし方も多様になり、自分が知りたいことをインターネットで検索してピンポイントで知る時代。知りたいことの背景文脈や周辺知識、つまり“ノイズ”となるものを、自分にとって不必要だと認識する人が増えたのではないでしょうか。だからノイズの多い本という媒体はあまり読まれなくなってしまったのかなと思います」
しかし、このノイズこそが重要だと三宅さんは続けます。
「新しいアイデアはノイズから生まれやすいと思っていて。仕事に全然関係ないと思ったことが、あとで『あれに使えるかも!』とアイデアにつながるときってありますよね。それに、その人自身の魅力や個性は、趣味や個人的な興味関心といった『ノイズ的なもの』から育まれるような気がするんです」
とはいえ、忙しい日々の中で、背景文脈や周辺知識を意識的に取り入れるのはなかなか難しいもの。三宅さんは「オフィスの本棚って、ノイズのちょうどいい取り入れ方というか、すごく面白い試みですね。仕事やオフィス環境に、本がどのように作用したら良いのか、皆さんとディスカッションしたいと思います」と笑顔で語りました。

三宅さんのお話を聞いて、参加者からは「ノイズがその人の引き出しの多さや柔軟性につながるのかも」「レコードのライナーノーツのように、背景文脈から興味が縦にも横にも広がっていくのが楽しい」といった感想コメントが。ノイズというキーワードから、働く人にとっての読書の意味やオフィスの本棚づくりについて、一人ひとりがイメージをふくらませます。
ふらっと立ち寄れば誰かに会え、何かに触れられるカフェのような場に
ここからは、3グループに分かれてのグループディスカッション。まずは「1日の中のどんなタイミングで本を読む?」「書店に行ったら、まずどのコーナーに行く?」など、読書との付き合い方について振り返り、お互いにシェアします。
さらに話題はCFKの本棚へ。「いつ、どんなシーンで、どんなふうに本棚を使えると良い?」という問いに対して、「喫煙所みたいに一人でリフレッシュしたり、たまたま会った人とコミュニケーションが生まれたりする場所になると良さそう」「コーヒーを飲みに行く延長線上にあるような、頭の切り替えやリセットができる場になれば」など、さまざまな意見が飛び交います。
また、「土木関係など、仕事に直接関わる本もあったほうが足を運びやすいのでは?」「その場で読むだけでなく、気軽に本を借りて持って帰れるとうれしい」といった、世代や部門を超えて誰もが立ち寄りやすくするための仕掛けづくりについてもアイデアが交わされました。

本の具体的なラインアップについては、「画集や写真集、詩集など、パラパラとめくって楽しめる本がほしい」「料理本や新大阪エリアのグルメ本があると良いかも」といった多様なジャンルを求める声が。さらに「本だけではなく、DVDやコレクションしているスニーカーなども一緒に並べたら?」「月ごとに誰かのおすすめ本が並ぶなど、変化があることも大切」などの意見も挙がりました。
本の並べ方に関しては、「すべて50音順に並べるなど、あえてジャンル分けしないほうが、ノイズ的な偶然の出会いが生まれそう」「机の上に広げたり平積みにしたりして、表紙が見えるようにディスプレイすると、普段は読まないジャンルも目に留まるのでは?」といったアイデアが。いかにノイズを取り入れて好奇心を刺激し、インスピレーションが得られるような場にするのか、みんなで知恵を絞ります。

本棚がこれからのCFKをつくる第一歩に
各グループでたびたび話題に挙がっていたのは、「そもそも業務時間中に本棚にふらっと行けるようにするには?」「仕事中に本を読んでいてもダメじゃない空気感は、どうやったら作れる?」といったテーマ。この問題に対して、三宅さんはこう語ります。
「自分の会社員時代を振り返ると、コーヒースペースで他の部署の人に偶然会って話をするような時間が、いい息抜きになったなと思うんです。仕事をする中でも、ちょっとした余白の時間って意外とあると思うので、余白やそこに生まれるノイズが本によってもたらされたら、すごく楽しいなと思います」
最後に、タスクフォースメンバーの菊地佑(道路系部門 道路第一グループ)がコメントして、ワークショップを締めくくりました。
「僕自身はついつい効率を重視してしまうタイプなので、今日の三宅さんのノイズのお話はすごく腑に落ちました。皆さんとのディスカッションでは、業務中に本を読みに行くことに抵抗を感じてしまう空気が社内にある一方で、そういう空気を変えていきたいと思っている人も多いと実感しました。オフィスをリニューアルして、1階に本棚ができるというこのタイミングを、社内の新しい空気をつくりだす一歩目にしていきましょう」

本棚について意見を出し合うだけでなく、自分たちの働き方を改めて見つめ直し、どんなふうに変えていきたいのかを考える機会にもなった今回のワークショップ。2025年4月のオフィスリニューアル第1期オープンに向けて、歩みを進めた一日でした。
オフィス環境づくりの紹介

オフィス環境づくり02:
社内外の共創を生み出すには? 対話を通して空間や仕掛けづくりを考える
社内外の共創を生み出すには、どんなオフィス環境や働き方、マインドが求められるのか。現状における課題や目指すべき方向性を外部パートナーを招いて語り合います。

オフィス環境づくり03:
地域の生態系ネットワークと呼応する、オフィスと都市の未来
ランドスケープ・アーキテクチャー(緑地学)を専門とする増田昇先生(大阪府立大学名誉教授)、本プロジェクトの外部パートナーである住友恵理氏(建築デザインユニット etoa studio 代表)をお招きし、屋上や中庭でチャレンジしたいことを社員と共に語り合います。

オフィス環境づくり04:
大阪中津・西田ビルに学ぶ、自社オフィスを通じてまちを良くしていく覚悟
地域に開かれたオフィスビルを目指し、そのヒントを求め総合ローカルカルチャー施設・西田ビルを訪問。ビルオーナーの西田工業(株)の宇田川さんと、さまざまな取り組みを仕掛ける東邦レオ(株)の久米さんと語り合い、これからのCFKのあり方を模索します。

オフィス環境づくり05:
リサーチから見えてきた、わたしたちの未来の作り方
リサーチに参加した若手社員と、本プロジェクトの外部パートナーである(株)ロフトワークの服部木綿子氏が、各地でどんな気づきを得たのか、今後のプロジェクトや自身の働き方にどう生かすのかを語り合います。

オフィス環境づくり06:
本音を話すことからはじめよう。部門を超えた同世代の繋がりづくり。U35ワークショップ「喫茶シランケド」
自分たちの未来を自分たちの力でつくっていくために、U35世代の社員が自分たちの働き方の現状と理想を語り合うワークショップを企画、開催しました。

オフィス環境づくり07:
これからの仕事と働き方を、私たちが作っていくために。U35「価値創造を噛み砕くロジックモデルワークショップ」
35歳以下の若手が主体となり、U35「価値創造を噛み砕くロジックモデルワークショップ」を実施。会社が掲げている中期経営計画(2022-2024)を自分たちなりに噛み砕き、CFKの未来を考えます。

オフィス環境づくり09:
まもなくリニューアル。生まれ変わったオフィスを自分たちらしく活用するための手引きを作ろう
2025年3月末の第1期リニューアル完了を目前に控え、CFK社員が新オフィスを活用していくためのハンドブックを制作中です。