環境調査におけるAIの活用

ICレコーダーの設置作業
1 ICレコーダーの設置作業

苦悩のフクロウ調査

芦野 洸介ASHINO Kosuke
環境・防災系部門
環境グループ

夜行性の猛禽類「フクロウ(Strix uralensis)」樹林地や畑地等で見られるフクロウ類の一種であり、国内に広く生息しています。闇夜に「ホーホー」と響くフクロウの鳴き声を、多くの人が一度は聞いたことがあると思います。日本人に広く認知されているフクロウですが、一部地域では営巣に適した大木や餌となる小動物の減少が原因で個体数の減少が報告されており、絶滅危惧種に指定されている地域もあります。

建設事業による影響評価のための調査等を実施する場合、フクロウは夜行性であるため、目視による確認は困難です。ICレコーダーを掛けて鳴き声を録音し、後で確認する調査方法(録音調査)を用いることもありますが、録音した音声データは人が聞いて確認する必要があり、現地で鳴き声を確認するのと同程度の時間を要していました。

私は過去に実施したフクロウ調査において、現地で録音した約300時間の音声データを実際に聞いて確認したことがあります。木の葉がそよぐ音や川のせせらぎの音が聞こえてくる中から、いつ鳴くとも分からないフクロウの鳴き声をひたすら聞きとる作業は、時間を要するだけでなく、精神的に辛い作業でした。

鳴き返し調査
2 鳴き返し調査
録音調査
3 録音調査

新たなツール「AI解析ソフト」

「QSAS-Bird」による解析のイメージ
4 「QSAS-Bird」による解析のイメージ

録音データの確認に要する時間を短縮できないか、プロジェクトメンバーと相談した上で、インターネットや新聞等より情報収集し、案を出し合い議論を重ねた結果、「QSAS®-Bird」1)というAI解析ソフトを活用することにしました。

「QSAS -Bird」は、富士通九州ネットワークテクノロジーズ株式会社2)が開発したソフトであり、学習させた野鳥の鳴き声をAIが解析し、鳴き声のみを検出するものです。今回は、これまでの調査で録音したフクロウの鳴き声等をAIに学習させることで、フクロウの鳴き声の検出システムを新たに構築し、録音データの確認を効率化することができるかを試行しました。

この時までは、建設業界で衆目を集めているAIを自分が活用することになるとは考えていなかったため、今回の試行は非常に新鮮に感じる一方で、AIの性能や効率性については、いささか不安を感じていました。

AI解析ソフトの実力と効率化

AIソフトによる解析は完璧なものではなく、フクロウの鳴き声以外の音(犬の鳴き声や風の音等)を検出してしまう例もありました。しかし、AIソフトにより検出された音声を全て聞き直すことで、フクロウであるかを判別することができました。「結局人が聞くのか」と思われるかもしれませんが、AIソフトで解析することで、人が聞いて確認する時間を総録音時間の約2.7%まで短縮できました。AIソフトによる解析作業にも時間を要しますが、1時間の解析にかかる時間は長くても10分程度です。何より、解析はAIが自動的に行うため、集中して耳を傾ける必要はなく、実際にこれまで300時間の録音データを聞いた私としては、感動的な効率化でした。

まだまだやれるAI・IoT

表彰式の様子
表彰式の様子

本研究は、第52回(一社)建設コンサルタンツ協会近畿支部研究発表会に一般論文3)として投稿し、最優秀賞を受賞したものです。発表会ではAIの活用に関する多くの質疑を受け、建設業界のAIに対する強い関心を感じました。

動植物の調査手法は目で見る、耳で聞くなどアナログな方法が一般的ですが、その中にはAIやIoTにより効率化できるものや、調査の精度が向上するものが多くあると考えられます。今後も、AIやIoTの活用可能性があると考えられる調査では、様々な方法を積極的に試行し、効率的に高い成果を上げるよう努めたいと思います。

【注釈】
1)QSAS®は、富士通九州ネットワークテクノロジーズ株式会社の登録商標です。
2)富士通九州ネットワークテクノロジーズ株式会社は2021年10月1日に「富士通株式会社」に統合されました。

【参考資料】
3) AI解析ソフトによるフクロウの音声解析の有用性に関する検討, 一般社団法人建設コンサルタンツ協会近畿支部, 第52回研究発表会、2019.10.3

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