環境DNAとは
水域に生息する生物は、体表組織の更新や排泄などによって水中に自身のDNAの断片を排出しています。このような環境中に存在する生物由来のDNA=「環境DNA(environmental DNA)」を回収し分析することで、生物を直接捕獲することなく生息する種を確認することができます。
特に魚類については、種特異的検出と環境DNAメタバーコーディング法(主にMiFish法)の2種類があり、近年、野外の河川や湖沼、沿岸域等の魚類調査に利用されつつあります。
この環境DNAを利用した調査は、従来の魚類を捕獲する調査とは異なり、現地での作業は分析に必要な水をくむだけであり、比較的簡易に実施できることから、多くのデータを短期間で効率的に取得することができます。
出典:環境DNA分析技術を用いた淡水魚類調査手法の手引き 第2版 (令和3年6月、環境省自然環境局生物多様性センター)
環境DNAの活用事例
CFKでは、近年注目されている「環境DNA」を活用して様々なフィールドにおいて調査等を実施しています。
調査等にあたっては、環境DNA研究の第一人者である一般社団法人環境DNA学会の理事等にご指導いただきつつ、協同で実施しています。
1)魚類相の把握
公共事業等の実施に伴う周辺環境への影響を把握するために、工事の実施前や実施中に行われる環境調査に併せて環境DNAによる調査を実施し、メタバーコーディング法によって事業地周辺に生息する魚類相を確認しています。
ある河川での調査では、1回の調査で計19分類群の魚類を確認しています。環境省レッドリストに掲載されている重要種などは生息個体数が少ないものも多く、捕獲調査では確認されない可能性もありますが、この河川での環境DNAによる調査によってニホンウナギ(環境省レッドリスト:絶滅危惧IB類(EN))の生息が確認されました。
2)重要種の移植地選定
公共事業等の実施に伴い、周辺に生息するカスミサンショウウオの移植が必要になり、環境DNAを活用して移植地の検討を行いました。
移植地の検討では、カスミサンショウウオを捕食するアメリカザリガニの生息の有無を環境DNAによって調査し、アメリカザリガニの生息していない水域にカスミサンショウウオを移植することで、より効果的な保全対策としました。
3)魚類の移動経路に関する研究
自然再生事業の実施箇所に生息する魚類がどこから供給されているかを明らかにするため、対象箇所に流入する河川や対象箇所から流下した水が合流する河川を対象に環境DNAによる調査を実施しました。
調査の結果、対象箇所に生息する魚類は、上流側からのみ供給されているのではなく、下流側の大規模河川からも遡上してきている可能性が示唆されました。
CFKにおける環境DNAの今後
CFKでは、今後も環境DNAの特性を活かした調査を行い、様々な水域における魚類相を明らかにするとともに、公共事業等に係わる適切な保全対策に活かしていくことを目指しています。