水辺をどのように捉えるのか

フランス パリ セーヌ河岸  河川沿いの車道を廃止し、歩行者空間へ変換

はじめに

日本の水辺空間の整備に資する知見を得るため、2022年9月18日~10月1日の約2週間、イギリス、フランス、ベルギー、オランダを対象に河川・水辺公園・運河の視察を行いました。

日本の水辺の歴史

日本における水辺の役割、機能は素晴らしいものです。かつて、東京、大阪でも網目のように水路が都市を巡り、船が行き交い、賑わいが溢れかえっていました。水辺は人々が集い、エネルギーを発散する場所として都市を活性化させていました。しかし、高度経済成長期以降、工業化、都市化で水が汚染され、水辺は悪臭が耐えられないような場所となりました。これに伴い、建物は水辺に背を向け、水辺は人々の関心から遠のきました。さらに、治水事業が積極的に進められ、洪水・高潮から人間の命を守るために、高い堤防が作られました。その結果、「水辺」と「都市」は切り離されました。

それでも、現在、水辺を人々の手に取り戻す機運が高まりを見せています。

しかし、前近代社会に築かれた日本の都市における水辺の役割・機能が、現代的な法体系、管理体制の下で否定され、船は自由に走れない、水辺に店は出せない、水際には簡単に近づけない、といったがんじがらめの状況が続いています。

水辺を新たな価値観の下で、未来に向けて作り直す必要があります。欧州では、1970年代より河岸通りの土地・水辺の動きが進展し、成果を挙げています。

河川という水辺を「水を安全に流下させる場所」以外で、どのように捉えられるのか、欧州の先進事例からヒントを得る必要があります。

「市民が集まる広場」として捉える

視察・ヒアリングを通して、欧州では休日、就業後の過ごし方の選択肢に「水辺」へ行くという選択肢があることに気づきました。いくつかの例を紹介します。

フランスのセーヌ川では、河川沿いの車道を廃止し、歩行者空間へ変換しています。かつての車道はカフェスペースや子供たちの遊び場となっています。

さらに、扇状に親水階段を設置することで、簡易的な舞台を作り、社交パーティーが可能な空間を形成していました(写真1)。

オランダのユトレヒトの運河では、運河沿いに飲食店が並んでおり、昼夜問わず、人々が食事を楽しんでいました(写真2)。

フランスのサンマルタン運河では、若者、老夫婦らが水際でたむろしていました。等間隔にカップルが並ぶ情景は京都の鴨川を彷彿とさせます(写真3)。

1 フランス パリ セーヌ河岸
河川沿いで唐突に始まる多国籍社交パーティー

2 オランダ ユトレヒト オーデフラハト
 河川側へ全く柵が設置されていないレストラン

3 フランス パリ サンマルタン運河
カップルが河川沿いに等間隔で並ぶのは万国共通

欧州では、水辺で何かイベントが企画されている訳ではありませんが、人々が集い、談笑し、時には食事をします。水辺が「市民が集まる広場」として機能しています。

「水辺」で過ごすことを心地良く思うのは、人間の共通の感覚であると思います。しかし、仮に、転落防止柵が設置されていたり、飲食店と水辺に距離があれば、ここまで「市民が集まる場」として機能していないでしょう。国民性の違いはありますが、花見のために、堤防に桜を植え、水辺で飲食するために、「川床」を始めた日本人も同様に、水辺という心地よく過ごせる場所を求めていると考えられます。

日本でも近年、自然豊かで、美しい水辺が戻りつつありますが、「人の賑わい」は不足しています。現代的な法体系に負けない水辺を使い倒すたくましさを取り戻すことが必要です。

「航路」として捉える

水上交通は古くから交通(人や物の移動)に大きな役割をはたしてきました。欧州では、河川の大小に関わらず至るところで、船を見ることができました。

ロンドンのテムズ川では貨物船、旅客船がところ狭しと運航していました(写真4)。
ベルギーのブルージュでは街並みを紹介する観光船が運航していました(写真5)。
フランスのセーヌ川では、都市交通として通勤にも使える水上バスが運行していました(写真6)。

日本は急流河川が多く、欧州のように自由に船を運行することができません。しかし、埋め立てられなかった水路や堀が残っており、水上交通を活用することを模索できる余地が残っています。

4 イギリス ロンドン テムズ川
貿易船、旅客船、水上バスが走行する様子

5 ベルギー ブルージュ 各種運河
運河が張り巡らされた水の都で走行する小型船

6 フランス セーヌ川 通勤用水上バス Batobus
交通手段として確立した水上バスに並ぶ人々

「職住空間」として捉える

欧州では水上を「職住空間」として捉え、有効的に活用していました。

イギリスのリトルヴェニスでは、運河に船を浮かべ、上水道や電気を引き、オフィスとして活用していました(写真7)。

また、オランダでは、かねてより、人口増加で住宅供給が追い付かなくなり、人が船に住むようになりました。船は好き勝手に止めているわけではなく、係留場所を自治体が決定しており、居住者は正規の住所を持っています。水害の多いオランダにおいては、船に上水道、電気を引くことも可能なため、地上と遜色ない生活ができるだけでなく、船は流さたり、浸水の心配がないため、安全と言えます(写真8)。

さらに、近年では、水上居住区が生まれています。軽くて体積の大きい住宅にすることで浮力が働き、地下部分の重りでバランスをとることにより安定した状態を保つことができます。水面に合わせて上下自在に動き、床より上に水が上がってくることはありません。水に抗うのではなく委ね、むしろ活用しています(写真9)。

日本では、オランダのように水上に家を建てる発想はあっても実現に至るまでの苦労を考えると、二の足を踏んでしまいます。それを成功させる環境、人材、法体系等が整備されたオランダを少し羨ましいと感じました。

7 イギリス ロンドン リトルヴェニス
船上オフィスライフを満喫する男性

8 オランダ アムステルダム ハウスボート
地上と遜色ない生活ができる居住用の船

9 オランダ アムステルダム 水上住宅
洪水で流されないように水上に浮かせた住宅

さいごに

10 フランス パリ セーヌ河岸 河川敷に子供たちが遊べるスペースを新設

水辺は大きな災害をもたらす場所ですが、人を惹き付ける場所でもあります。

日本で河川の仕事をしていると、どうしても「水を安全に流下させる」ことに注力してしまいます。それは勿論、必要ですが、視察を通して、既存のやり方に捉われない新たな挑戦に対して「大胆さ」を感じることができました。フランスのセーヌ川は世界遺産にもなっており、美しい建築物が河岸に並びます。その景観は世界遺産に登録された最も大きなポイントです。しかし、その景観を保つ取り組みだけでなく、河川敷に子供が遊べるスぺ―スを新設し、現在、通勤にも使える水上バスまで動かしています(写真10)。

今回の視察を通して、「もっと水辺は自由に使っていい」ということを学ぶことができました。欧州での水辺の捉え方を忘れずに、先進事例を日本で1つでも成功させられるように頑張りたいと思います。

﨑山 賢人
SAKIYAMA Kento
環境・防災系部門
流域治水グループ

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