ドローン等を利用した河川構造物の維持点検手法の提案

はじめに

平成25年に河川法が改正され、河川管理者は河川管理施設を良好な状態に保つことが規定されたほか、点検の対象施設や頻度、記録等についての基準についても規定されました。また、これに伴い、河川砂防技術基準維持管理編(河川編)等の維持管理や点検等についての要領、マニュアル等が制定・改訂されました。これらにより、維持管理のPDCAサイクルにおいても点検の重要性が明確に位置づけられ、さらなる河川管理の高度化が求められています。

ここでは、維持管理手法が確立されていない河川構造物において、新たな点検機器を試行し、業務活用にあたっての留意点を整理しました。

背景・目的

河川管理施設のうち、堤防・河道については、UAV・MMS等での維持点検手法が確立されつつあります。特に、UAVについては、職員等「人」が実施している河川巡視、維持点検等をUAVで代替し、UAVによる空撮とAIの画像解析による護岸の劣化診断の実証実験等を実施して、河川管理の高度化を図っています。

その一方で、水没している樋管や床止めの水叩き等、目視や空撮で点検が困難な河川構造物については、未だ維持点検手法が確立されていないために、正確な状態把握ができていません。

今回、目視や空撮等で点検が困難となっている河川構造物に対し、点検が困難となる部位ごとに、適切な点検機器を選定・試行し、今後の業務活用にあたっての留意点を整理しました。

対象とする河川構造物と点検機器の選定

点検対象一覧

(1)「堤防等河川管理施設及び河道の点検・評価要領(平成31年4月 国土交通省 水管理・国土保全局 河川環境課)」(以下、「点検・評価要領」とする。)では、河川構造物を樋門・樋管、水門、堰・床止めと位置付けています。

このうち、目視や空撮で点検が困難な河川構造物の部位として、①立ち入りできず、目視点検が困難となっている「樋管 函体(径600㎜以内)」、②目視点検が困難である「直壁型 床止めの本体工・水叩き」、③熟練の操縦技術が必要であり、空撮が難しい「直壁型 床止めの中央魚道」に対して、点検機器を選定・試行しました。

点検対象の点検事項

(2)それぞれの河川構造物の部位は、「点検・評価要領」において、点検事項が整理されています。樋管函体では、取水・排水機能低下の状態として、ひび割れによる漏水、土砂堆積等による流下不足等が懸念されるため、内部を確認できる点検機器が必要となります。

また、床止めの本体工については、コンクリート表面への変状が懸念されるため、水中部における本体工のコンクリート表面の変状(状態)が確認できる点検機器が必要となります。さらに、床止めの水叩きについては、著しい河床低下及び本体下の土砂の吸出し等が懸念されることから河床洗掘が確認できる点検機器が必要となります。

加えて、床止めの中央魚道については、魚道内に土砂が堆積し、所定の通水幅、水深が確保できなくなり、魚類等が遡上困難となる、もしくは、側壁の破損等によって流量や水位に変化が生じる状態となることが懸念されます。そのため、魚道の上下流の土砂堆積及び魚道の側壁の破損状況等が確認できる点検機器が必要となります。

(3)河川構造物の部位に対して、以下のとおり点検事項が満足できるような点検機器を選定しました。
①「樋管 函体(径600㎜以内)」については、各水位状況に基づき、4機種の点検機器(地上ロボット、UAV、水上ドローン、水中カメラ)を選定・試行。
②「直壁型 床止めの本体工・水叩き」については、水中部での移動が可能な水中ドローンを選定・試行。
③「直壁型 床止めの中央魚道」については、UAVの自動操縦で写真測量が可能となる点検機器を選定。

点検方法

(1) 地上歩行ロボット

地上歩行ロボットでの撮影の様子

樋管に水が無い状態(空管状態)での点検に使用します。点検時には、本体とスマートフォンが無線でつながっていることを確認し、本体を函体内部へ進入させ、その後スマートフォンで操縦を行い、調査箇所の記録を取ります。地上歩行ロボットは、前後・左右移動に加え、横方向への360度回転、カメラ向き(-24°~35°(水平位置0°))の変更が可能であるため、函体内部の写真撮影が可能であります。

(2) トイドローン

トイドローンでの撮影の様子

 樋管が平常時水位での点検に使用します。点検時には、本体を樋管函体内部へ進入させます。その後、スマートフォン(リモコン)で操縦を行い、調査箇所の記録を取ります。トイドローンは、小型で、前後・左右・上下への移動、横方向への360度回転が可能で、函体内部で写真撮影が可能となります。

(3) 水上ドローン

水上ドローンでの撮影の様子

樋管が平常時水位での点検に使用します。点検時には、本体を樋管函体内部へ進入させます。その後、スマートフォン(リモコン)で操縦を行い、調査箇所の記録を取ります。水上ドローンは、前後移動、横方向への360度回転、カメラ向き(‐150°~70°(水平位置0°))を変更できるため、函体内部の変状の写真撮影が可能となります。

(4) 水中カメラ

水中カメラでの撮影の様子

樋管が満管水位の点検に使用します。点検時には本体を樋管函体内部へ進入させます。撮影時には撮影用ポールを持ち続けることが必要となるため、撮影用ポール要員と撮影者が協力して、点検を実施する必要があります。なお、水中カメラは、撮影用ポールに接続した上での点検になるため、基本的には、撮影用ポールが届く範囲しか点検ができません。

(5) 水中ドローン

水中ドローンでの撮影の様子

直壁型床止めにおける本体工及び水叩きの点検に使用します。点検時には、本体とスマートフォン(リモコン)が有線(ケーブル200m)でつながっていることを確認し、直壁型床止め下流等から着水させます。その後、スマートフォン(リモコン)で操縦し、調査箇所を記録します。水中ドローンは、前後左右上下への移動、縦横方向への360度回転が可能であるため、本体工を調査する場合は、本体工沿いに縦横移動を活用した撮影を行います。水叩きを調査する場合は、平常時より90度縦方向へ機体を回転、その後、水叩き付近まで前進します。水中ドローンはその体勢を維持するため、縦横移動を活用し撮影します。

(6) UAV

UAVでの写真測量の様子

直壁型床止めの中央に位置する魚道の点検に使用します。本体とリモコンが無線でつながっていることを確認し、写真測量をします。写真測量では、高度25mより速度2.0m/sでの鉛直方向での撮影、同様の高度、速度での斜め方向(60°(水平位置を0°))での撮影(上流・下流・左岸・右岸側)の計5方向から撮影をします。撮影したすべての写真を3D点群処理システムに通して、点群データとして出力します。

得られた結果と業務活用における留意点

「樋管 函体(径600㎜以内)」において水位状況に基づき、様々な点検機器を用いて点検を実施しました。そのいずれにおいても樋管のクラック、土砂堆積の状況等を確認できたため、点検事項を概ね満足していると考えられます。

留意点として、どの機器を使用しても、函体のクラック幅・土砂堆積量を計測することができていないだけでなく、函体の撓みについては、函体の吐口からの目視での確認に限られてしまうことが分かりました。また、各点検機器でライト出力量が小さいために、樋管函体(径600㎜以内)においては、吐口から進入すればするほど、函体内部が暗くなっていき、函体内部状況が分かりにくくなりました。なお、点検試行時(函体長さ10ⅿ程度)にはダイビングライト(3,000lm)を併用することで函体内部の状況が分かる写真を撮影することができました。

その他各点検機器を業務活用する際の留意点を示します。

(1) 地上歩行ロボットについて

操縦と撮影を1人で行えるだけでなく、カメラ向きを自由に変えることができるため、容易に点検が可能となりました。留意点として、地上歩行ロボットは防水加工が施されていないため、急な排水には注意する必要があります。
また、函体奥深くへ進むと無線電波が入りにくくなるため、注意が必要であり、紛失リスクを回避するため、別途釣り糸(2号以上)を付けておくことが望まれます。

(2) トイドローンについて

操縦と撮影を1人で行えるだけでなく、カメラ向きを自由に変えることができるため、容易に点検が可能でありました。しかし、電波障害や突風によって一時的に制御不能となり、回収困難になることが懸念されました。また、機種によっては、安全装置が働いて函体内部に入れない等の問題が発生したため、点検機器としての使用に課題があることが分かりました。

(3) 水上ドローンについて

水上ドローン点検における留意点

水上ドローンの特性上、水草等の植生がスクリューに絡まることで進入ができない可能性があることが分かりました。また、後退速度が非常に小さいため、あらかじめ水上ドローンに釣り糸(2号以上)等をつないでおき、点検終了時には、引っ張るような形で水上ドローンを外部に排出させる必要がありました。さらに、樋管は、吐口に向かう勾配があるため、低水位時には、吐口から離れるほど水位が低くなります。15~30cm程度の水位の場合、移動ができなくなるため、函体内部の水位を確認した上で、点検を実施する必要があります。加えて、水上ドローンの大きさでは、函体内部での横回転ができず、また、水面上からしか撮影ができないことから、経過観察で写真を重ね合わせることができません。そのため、クラックの正確な進行度を観測できないことが分かりました。

(4) 水中カメラについて

カメラ本体とスマートフォンを有線で接続し、函体内部の様子を撮影しますが、点検時には、撮影用ポール要員が撮影用ポール(約850g (カメラ重量含む))を両手で持ち続ける必要があります。そのため、点検には、少なくとも2名必要であり、撮影者が撮影用ポール要員に対して指示を出して、点検を実施する必要があります。なお、デジタルカメラ(Wi-Fi機能搭載)とスマートフォンは、水中では、Wi-Fi通信が機能しないため、有線での接続もしくは、水中でのWi-Fi通信を補助するケーブルによる接続を実施する必要があります。

(5) 「直壁型 床止めの本体工・水叩き」について

コンクリート表面の状況、河床低下の状況等を確認することができたため、点検事項を概ね満足していると考えられます。なお、鉛直方向に移動し、河床が見えたところが深さになるという考え方で、洗掘深さを確認できることが分かりました。留意点として、水中ドローンは、一定深さでの移動を想定しているため、進入位置、回収位置をあらかじめ選定しておく必要があります。また、どの箇所でコンクリート表面の異常や局所洗掘が発生していたのかを確認する必要があるが、水中ドローンを潜水させてしまうと、面的な位置が把握できないため、一旦浮上させて位置を確認する必要があることが分かりました。さらに、水中ドローンは流速が大きい箇所での移動が難しいため、流速が小さい河床付近から本体工へ近づいていく必要がありました。

(6) 「直壁型 床止めの中央魚道」について

UAV写真測量における留意点

UAVを用いた写真測量を実施し、点群データを取得しました。点群データ上で魚道の側壁の破損状況、魚道の土砂や流木の堆積状況等を確認できたことから、点検事項を概ね満足していると考えられます。留意点として、魚道の側壁を撮影するにあたって、鉛直方向からの撮影では側壁の点群データを適切に取得することができないので、鉛直方向からの撮影と同様の高度、速度での斜め方向での撮影を実施する必要があることが分かりました。また太陽の位置によっては、魚道部分が側壁の影に覆われてしまうため、日当たりを考慮しておかないと適切な点群データを取得できないことが分かりました。さらに、取得した点群データ上で魚道の側壁のクラック幅を計測すると、開きから水が浸入している箇所は、点群データが取得できておらず、適切に開き幅を計測できないことが確認されました。その一方で、魚道の側壁の傾斜については、実測値と同様の値を点群データから取得できることが確認されました。

まとめ(留意点を踏まえた提案)

河川構造物の部位に対して6機種の点検機器を用いて点検試行を行いましいた。点検事項を概ね満足しているが、先に示している留意点を踏まえた点検を実施する必要があります。以下に、河川構造物の各部位に対しての点検方法を提案します。

(1) 「樋管 函体(径600㎜以内)」について

撮影用ポールを用いた点検手法を基本として、樋管函体の吐口から2~3ⅿ程度の点検を定期的に実施することを提案します。撮影用ポールが到達しない範囲はあるが、上流側の写真撮影は可能であるため、現況把握としては十分と言えます。また、現状の点検方法(変状箇所をカメラで撮影する点検方法)に対して、撮影用ポールと接続ケーブルを準備することで、実施できることから汎用性の観点においても問題ないと考えられます。

なお、函体吐口から、上流側にクラックが発生している可能性がある場合は、函体の水位状況に応じて点検機器を選定し、詳細点検を実施することを提案します。ただし、満管時に使用できる点検機器がないことから、樋管に対して仮締め切り等を実施し、水位調整する必要があります。

(2) 「直壁型 床止めの本体工・水叩き」について

水中ドローンを用いた点検手法を提案します。先に示した留意点を踏まえ、現地条件が整っている場合は、点検が可能であると考えられます。水中ドローンは一般的に点検に使用されている機器(カメラ・UAV等)ではないため、汎用性に欠けますが、点検機器としての販売がされており、操作性能に優れているため、導入しやすいと考えられます。

(3) 「直壁型 床止めの中央魚道」について

UAV(写真測量)を用いた点検手法を提案します。写真測量はレーザー測量と比較して安価であり、人が立ち入りできない箇所についても、自動運転で操縦すれば、簡易に点群データが取得できます。
また、同様の方法で撮影することで、擁壁傾斜の経年変化を確認することも可能となります。

おわりに

ここでは、常時水没している樋管の駆体等、目視や空撮で点検が困難な河川構造物において、新たな点検手法を試行し、今後の業務活用にあたっての留意点を整理しました。

今後、これら提案した新たな点検手法を活用し、これまで点検が困難であった河川構造物の適切な維持管理にも寄与していきたいと考えております。

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