はじめに
CFKは、2021年度より海外分野を重点分野に位置づけ,海外業務に取り組める技術者の育成や環境整備に取り組んでいます。その一環として、海外を知り日本の建設コンサルタントやCFKのあり方を考えることを目的として、海外の設計事務所への訪問と意見交換、訪問国の公共構造物等の視察などを行う海外研修を2023年度から実施しています。
初年度のドイツ(ミュンヘン・アウクスブルク・シュツットガルト)に続き、2024年度は、世界で最初の産業革命や、鋼橋アイアンブリッジ建設など、その技術を世界に示した先駆者であり、技術の先端を行く国として選定したイギリス(ロンドン)と、昨年の研修での繋がりから、ベルギー(ブリュッセル)を訪問しました。
渡航にあたっては、視察国、訪問会社、視察先、海外に行って知りたいことや聞きたいことを研修メンバーが主体となって議論を行い、研修内容を決定しました。
さらに、訪問会社へのアポ取り、宿泊先、飛行機などの手配も研修メンバーで行い、2024年10月19日(土)~10月31日(木)の期間で研修を実施しました。
会社訪問
今年度は、ネイ&パートナーズ社(ブリュッセル)、カジマヨーロッパ社(ロンドン)、Arup社(ロンドン)の3社を訪問しました。会社訪問では、視察の目的を鑑みて設定したテーマで意見交換を行いました。
テーマ①建設コンサルタントの役割
各国の建設コンサルタント(設計者)の土木事業における役割や仕事の範囲について確認しました。
文献等でヨーロッパではデザイン・ビルドによる発注が主流であると考えていましたが、イギリス・ベルギーともにデザイン・ビット・ビルドが主流であるとのことでした。一方で、デザイン・ビルドで発注される場合、イギリスでは、設計者が施主側に立ち詳細設計・工事を監督する役割を担うこともあり、ベルギーでは施工者の下請けで設計をすることが多いという意見でした。昨年のドイツも含めてデザイン・ビット・ビルドが主流なのは日本と同じである一方、デザイン・ビルドでの設計者の立ち位置は各国で違いがあるのだと感じました。
テーマ②土木設計業務受注の仕組み
日本では、QCBS(Quality & CostBased Selection:総合評価)による入札の場合、低基準価格での落札が多くなるという現状に対して、イギリスでは、どのように入札が行われているか確認しました。
イギリスでもQCBSによる発注が多いとのことで日本と同様の課題があるとの印象を受けました。ただし、Arup社では技術で勝負できる入札方式の業務を優先的に狙っているとのことで、彼らの技術力への自信が垣間見えました。
テーマ③土木業界の魅力向上
日本の建設コンサルタントは労働時間が長く、それがこの業界の魅力低下の要因となっていると考え、各国の技術者の働き方について確認しました。
イギリス・ベルギーとも従業員の多様な働き方を受け入れているとのことでした。特にロンドンに会社を構えるカジマヨーロッパ社やArup社では、郊外からで通勤に時間がかかる社員が多いため、テレワークにより自由時間が増えることが、会社への感謝の気持ちと仕事のモチベーションアップにもつながっているとのことでした。
会社訪問を通じて
意見交換を通じて訪問した国や会社の考え方や、技術者の意見を聞くことができました。聞いた意見がその国を代表するものとは限らないことに留意する必要がありますが、いずれの意見も興味深く、日本の建設コンサルタントのあり方を改めて考えさせられるものでした。
現地視察
ネイ&パートナーズ社の作品視察
写真はアーチ部を階段にして桁下道路から歩行者が、上路はアプローチ部から自転車が通ることができるように動線が分けられたアーチ橋です。その場所ならではの制約をクリアすべく、どういったプロセスを経てこのような発想が生まれたか興味がそそられる橋梁で、これ以外にも興味深い橋梁が多く、思いを馳せながらの視察でした。
テムズ川に架かる橋梁に触れて
テムズ川は観光名所のタワーブリッジ(1894年)など、新旧の橋梁が混在し、ロンドンの歴史を感じることができる場所です。建築物としての色合いが強いタワーブリッジだけでなく、橋としての機能美を感じるミレニアムブリッジ(2000年)にも多くの人が集まっており、人から好かれる橋の在り方を感じることができ興味深かったです。
ロンドンの再開発プロジェクト
キングスクロス地区 商業施設(旧倉庫街)
キングスクロス地区は工業地帯や倉庫街として栄えていたが、産業の変化とともに衰退していった地域である。旧倉庫街を再利用した商業施設、新しく建てられた住居や公園、それらに隣接した企業や大学・駅が立地することで多様な人々の来訪を促しており、歩くだけでも楽しい魅力的な街であることを実感できた。
写真右:エリザベスラインのホーム
ロンドンの地下鉄
1863年に開通した世界最古の地下鉄であり、セントラルラインなどの古い路線は、駅構内が薄暗く、エレベーター等も少ない利便性の悪い駅が多かったです。一方、2022年5月、43年ぶりの新線であるエリザベスラインは、バリアフリー化された利便性に優れた駅が多く、新旧の技術変化を感じとることができました。
メンバーの想い
昨年のドイツ視察も含めて全6社(設計会社、ゼネコン、メーカー)への会社訪問を行い海外の仕事の仕組みや働き方などの意見交換を行うことができました。特に、「新しいことへのチャレンジ精神が高いこと」、「誇りをもって仕事をしていること」、「自分が勤めている会社が好きで感謝の意を持っていること」がとても印象に残り、それらの気持ちを持った社員が会社を盛り上げていくのだと感じました。一方で、本稿では掲載しきれませんでしたが、日本やCFKが抱える課題(土木業界魅力向上、人材確保・育成など)は、ヨーロッパでも同じように課題であることが知ることができました。制度や文化も違うためその国々に適した取り組みがあると思うが、日本・CFKの方がこれらの課題に、より熱意をもって取り組んでいることが実感できました。
今回の視察では、渡航前の準備段階から海外の事情を調べ、会社訪問と意見交換を通じ海外を知ることができ、我々が専門とする技術以外にも目を向けた多様性を持った技術者を目指していきたいと感じました。さらには、このような取組みを継続的に行ってCFKを盛り上げていくことができればと思います。
ビジネス視察の意義
澤野 嘉延(海外事業本部長)
私は、ロンドン視察の一部に参加しました。ロンドンには未来の東京や大阪の姿があると感じ、様々な立場・役割で誇り高く働くコンサルティング・エンジニアの姿がありました。それら社会やビジネスの姿は、過去の「挑戦」し続けた人たちの「物語」の上に成り立っていて、その場所で、その人たちと直接会話することによって初めて理解することができます(本当は、そこに住み働かなければ理解できません)。
私は、何のために生まれて、何のために働いてきたのか。ロンドンにて、日本でもコンサルティング・エンジニアの新しいビジネスの「物語」を創りたいと強く思いました。そのためには、試行錯誤しながらも人類の近代文明の進歩の先頭に立つ欧州(世界の一流のビジネス・技術市場)で、日本の交通インフラの計画・設計技術のビジネス展開に「挑戦」し、一つでも良いので「世界一」を獲りたいと本気で思っています。皆さん、私と一緒に「挑戦」しませんか。








