海外空港の国際物流戦略調査

国際航空物流の重要性

木俣 順
KIMATA Jun
総合技術本部
技師長

少し前まではインバウンド需要で盛り上がっていた我が国ですが、コロナ禍で情勢は一変、海外との行き来は大きく制限され、図1に示すように今も国際線航空旅客数は激減したままです。またWeb会議等の普及による出張の減少などの影響で国内線航空旅客数もコロナ前の半分以下の水準です。

一方、国際線航空貨物量はほとんどコロナの影響を受けていないどころか最近はむしろコロナ以前よりも多い状況にあることはあまり知られていないのではないでしょうか。いつなんどきでも国際的なモノの動きは止まらないことを示すこのグラフは、コンサルティングビジネスにおいても国際物流はサステーナブルな“飯の種”の1つであることを示唆していると言えます。

図1 関西3空港の旅客数・貨物量の推移 1)

 

島国である我が国の国際物流は海上輸送と航空輸送が担っていますが、ボリューム面で見た場合、全体の99%以上を海上輸送が担っており、港湾・海運を専門とするコンサルタントも数多く存在します。一方、空港・航空に関しては、施設・設備や旅客の専門家は多いですが、航空物流に関しては物流事業者系シンクタンクが存在するもののコンサルティング市場としてはまだまだフロンティアです。また、我が国の国際物流に占める航空輸送はボリューム面では1%未満ですが金額面では30%を占めており、付加価値が非常に高いものを扱う重要な輸送手段です。加えて航空物流のDXや食の航空輸出拡大は目下の主要政策課題の1つであり、この分野は今後の有望なコンサルティング市場の1つであると認識しています。

このような認識の下、CFKでは国際航空物流を業務銘柄の1つにすべく2014年度から(一財)関西空港調査会(以下「調査会」)の空港貨物調査研究に参画し、知見の蓄積を図ってきました。

海外空港の物流戦略調査

このように重要な航空物流ですが我が国空港では収益につながらない構造から力を入れてこなかった分野でもありました。そこで調査会では、日本の空港の貨物・物流機能強化のために海外空港の航空物流戦略を調査する研究会2),3)を立ち上げ、CFKは学識経験者のご指導を受けつつ、その事務局として調査先空港の選定、調査工程の企画、現地調査・ヒアリングの実施、我が国空港への提言とりまとめを担いました。

以下に、アジアの各空港を訪問して得られた知見について簡単に紹介します。

香港国際空港

写真2 香港国際空港に駐機中のB747貨物専用機(旅客を乗せないため窓がない)
写真2 香港国際空港に駐機中のB747貨物専用機(旅客を乗せないため窓がない)
  • 巨大な全自動倉庫が複数立地、効率的な貨物ハンドリングを実現。
  • 中国本土のゲートウェイ、海上輸送(香港港)と航空輸送をシームレスに選択できる総合物流の拠点。
  • 世界的な活躍を目指し、国際物流分野が若い優秀な人材に人気。

スカルノ・ハッタ国際空港(インドネシア)

写真3 MRO施設で整備中のB747(インドネシア)
写真3 MRO施設で整備中のB747(インドネシア)
  • ガルーダ航空の整備子会社からスタートしたGMF Aero Asia社がMRO(Maintenance Repair Overhaul)拠点を設置しアジア太平洋地域各社の航空機を整備。
  • MRO設置により大量の部品物流が発生。エアラインも整備に合わせて航路を就航、ハブ空港化を実現。

台湾桃園国際空港

図4 台湾桃園空港のネットワーク戦略と将来計画平面図
図4 台湾桃園空港のネットワーク戦略と将来計画平面図 2)
  • 国家戦略・産業政策の一環として空港貨物機能を強化。ASEAN等に進出した台湾系企業が中台関係悪化でも安定的に世界に輸出できる貨物ハブとしてエアラインとセットで機能。
  • 台北港と一体的に整備・運用しSea &Air輸送を実現。空港とFTZ(自由貿易港区)を一体的に整備しスムーズな物流を実現。
  • 今後の計画としてFTZの拡張やMRO施設誘致を計画。

スワンナプーム国際空港(タイ)

写真5 タイ空港公社とのディスカッション光景
写真5 タイ空港公社とのディスカッション光景 2)
  • 空港近傍にアリババグループの東南アジアハブ物流倉庫が立地、EC(電子商取引)貨物が空港貨物部門の収益源に。
  • 食の宝庫・タイらしくエビの輸出や果物の輸入なども多い。

クアラルンプール国際空港(マレーシア)

写真6 滑走路の真横に建設中のアリババの巨大倉庫(マレーシア)
写真6 滑走路の真横に建設中のアリババの巨大倉庫(マレーシア) 2)
  • 中国経済との結びつきを重視した空港戦略。アリババグループと提携しEC関連貨物の集貨に注力。
  • EC情報や商品をスムーズに流すためDFTZ(Digital Free Trade Zone)を整備。

海外現地調査の重要性

写真7 インドネシア料理と現地で購入した日本の 菓子類
写真7 インドネシア料理と現地で購入した日本の 菓子類

海外調査で常に思うことは、「先進国だと信じて疑わない我が国が実は遅れている面も多々ある」、「アジア諸国はかなり先を行っている」ということです。特に国際インフラである港湾や空港は国内だけを見て検討していると世界的には時代遅れになってしまう恐れがあります。そうした点で海外の実例を見ることは極めて重要です。

海外情報の収集は文献等でも可能ですが、インフラ・施策は現地の情勢が背景にあって成立しているものであり、現地の肌感覚を得るためにはやはり実際に訪問し、見て、関係者と話し、体感することが重要です。現地での食事も海外調査の楽しみの1つですが、食材等の調達方法を聞いて意外と航空輸入されていることが分かると食べる味もひと味違って感じるものです。また、お土産屋に並ぶ日本の菓子類を実際見ると我が国とアジア諸国との近さも感じることができます。

今後の展開

これらの海外調査で得た知見を活用し我が国の空港貨物機能・航空物流のアップデートに貢献すべく、現在CFKでは、国土交通省航空局(4年目)や国土交通政策研究所(2年目)が発注する空港物流関連業務を継続して受注し、実施しているところです。ただ、たちまちはコロナ禍のため、現地訪問できないことが残念です

現在、コロナ対策の切り札として接種が進んでいるワクチンの輸入も国際航空輸送が担っています。CFKとしては更に知見を蓄積し、様々な面で今後の我が国を支える重要な社会インフラである航空物流の高度化に貢献したいと考えています。

【参考資料】
1)(一財)関西空港調査会調べをもとにCFK作成
2)「関空の発展に向けて~航空貨物の拡大~」(2017年3月、貨物ハブ空港としての関空の将来像を探る研究会・(一財)関西空港調査会)
3)「空港運営と航空貨物に関する研究会報告書」(2020年5月、(一財)関西空港調査会)

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