
はじめに

CFKは、2001年に南京市城市与交通規制設計研究院(以下、南京交通研)と「南京鉄道交通線網計画」を協働して以来、業務や技術交流を行っています。南京交通研は中国における建設コンサルタントの位置づけにあたる企業です。
今回、CFKは、2023年の9月と11月に、南京交通研を訪問し、南京市の都市計画課題について技術交流を行いました。
南京市の概要

南京市は、人口850万人(2019年現在)の街で、現在の都心は、旧市街にある「新街口」という地域にあります。旧市街の周囲には、明朝時代の城壁が文化財として保存されています。
南京市には高速鉄道(新幹線)駅が2駅あります。ひとつは旧市街付近に古くからある南京駅です。もうひとつは旧市街の外側に新設された南京南駅です。
南京南駅は、旧市街、郊外住宅地、国際空港と地下鉄4路線で接続されており、交通結節点として発展していく高いポテンシャルを秘めた駅です。
都市計画課題と提案
2023年9月の訪問では、CFKからは、日本における鉄道を中心とした都市の発展の経緯、近年の鉄道の輸送力増強策と事業スキーム、道路空間再編によるウォーカブルなまちづくり等について紹介しました。南京交通研からは、15面28線の高速鉄道(新幹線)が乗り入れる南京南駅の整備計画、近年の人中心のまちづくりへの取組等が紹介されました。
技術交流を進めていくなかで、南京市が抱えている課題が見えてきましたので、11月の訪問では、CFKはそれに対する技術提案を行いました。ここでは、南京市が抱える課題として、新街口と南京南駅の一体化、ウォーカブルな街づくり、資金調達スキームの開発の3つを取り上げ、それらに対する技術提案と感想を述べます。
新街口と南京南駅の一体化
南京南駅の周辺地域と新街口との移動時間が地下鉄で25分かかります。時間距離が長すぎて、南京南駅の周辺地域と新街口とが一つの市街地にはなれていません。
南京南駅の周辺地域だけでなく、新街口周辺も人の往来が少なく感じます。人口890万人の大阪と比べても、街並みが寂しい印象です。
そこで、新線整備や既存地下鉄のスピードアップ等により、南京南駅の周辺地域と新街口との時間距離を梅田-なんば並の15分程度に短縮することを提案しました。2つの地域間で半日打合せが可能になることで、一体性を持ったひとつの街として発展することができます。
南京南駅の整備状況を視察しましたが、構造計画が優れており、施工精度も高いレベルにあります。一方で、既設構造物の改造工事は、中国では未経験領域です。今後、社会経済活動の変化に応じて、整備済みの構造物群を改造して有効活用するような社会要望が増えてくると思われます。そういった面での日本の技術力・経験が求められる時期になってきたと感じました。
ウォーカブルな街づくり
多額の資金を投じて開発した南京南駅の周辺地域に、人が集まってきておらず、駅前のオフィス・ビル群は閑散としていました。欧州や日本で見られるような、人と人とのコミュニケーションが取りやすい、人中心のまちづくりができていません。
技術交流を通じて、中国においても、日本と同じく、自動車中心から人・公共交通中心のインフラ整備に変えていきたいという強い思いを持っていることを知りました。私たちが京都の四条通、大阪の中之島やなんば、御堂筋で行っている道路空間再編や歩行者空間整備の取組みを紹介しましたが、これらの経験は中国でも大いに役立っていくと感じました。
そこで、南京南駅の周辺地域において、徒歩と公共交通で周遊でき、公共空間で様々な人が交流・滞留できるクリエイティブでウォーカブルなまちに再開発することを提案しました。日本においては、多種多様な経験や知識を持った人々が集い、互いに刺激を与えあい、場合によっては協働できるような空間や仕組みづくりに取り組んでいるところですが、中国においても、まさに今取り組むべきです。
南京と大阪の比較




資金調達スキームの開発
昨今日本でも報道されているように、中国では不動産バブル崩壊を受けて、インフラ整備の資金調達が行き詰まりをみせています。
中国では、地方政府が開発用地の土地使用権を不動産開発会社(第3セクター)に売却し、その収益でインフラ整備を行ってきました。不動産開発会社は、購入した開発用地に商業施設や住居施設を整備し、それらの使用権を市民に売却することで潤ってきました。2023年秋頃から住宅価格の下落が続き、商業施設や住居施設の使用権が売れなくなりました。このビジネスモデルでは、うまくインフラ整備資金が廻らなくなりました。
そこでCFKは、社会インフラ整備への新たな資金調達方法に関して研究を始めることを提案しました。中国におけるインフラ整備は、開発用地の使用権売却という1度限りのCapital Gainで行われています。これでは行き詰まることは避けられません。日本で行われているように、土地所有者が毎年納める固定資産税や住民税を得る方法や、政府や地方自治体が土地使用権を保持し続け、その地域の価値を高めていくことで賃料収益を上昇させる方法などIncome Gainを得る方法も適用可能と考えられます。
ただし、中国の国内事情は日本とは大きく異なります。日本の資金調達スキームをそのまま導入することは難しいため、今後は、両者の違いを深く理解した上で、中国で活用できる資金調達スキームを一緒に模索していきたいと考えます。
技術交流を通じて学んだこと
中国の技術者と直に対話をすることで、中国の都市整備の経緯、中国におけるインフラ整備に対する考え方、政治も含めて、現状の課題などを詳しく聞くことができ、コンサルタントとしての世界観が広がりました。
一つ一つのインフラについてはもちろんですが、都市としての発展や、世界から選ばれる都市となる、そのためにどういうインフラをどう作るかという視点で考えることが必要と感じました。まちや社会インフラは更新と発展を続けていく必要があることも改めて認識しました。
また、今回の技術交流・中国訪問にあたって、行政OBの北村顧問、安藤スタッフとは何度も議論を繰り返しました。日本と中国の状況を比較しながら日本においてどのように都市を考え整備し、発展してきたのか、日本の技術・経験を改めて認識するきっかけにもなりました。安藤スタッフには現地にも同行いただき、都市を作ってきた技術者本人としての経験を、中国の技術者に正面から伝えることができ、日本の都市・技術力のアピールになったのではないかと考えます。
おわりに
私は、入社以来ずっと、鉄道整備の構造物設計に携わってきました。今回、設計の前段階から鉄道整備とまちづくりとが一緒になってプロジェクトを進めていくことの重要性を学びました。この経験を日々の業務に活用していきたいと思います(今村)。
文化や背景が異なる都市で、その都市に応じた提案を考えることの難しさや楽しさを学びました。この経験を日本の業務においても応用していきたいと思います(岡田)。
最後に、今回の海外出張では、大変に貴重な経験をさせていただきました。技術交流を受け入れていただいた揚涛董事長、銭林波総経理、南京交通研の皆様をはじめ、関係の皆様には大変お世話になりました。この場をお借りして感謝の意を申し上げます。

左)今村 年成
IMAMURA Toshinari
鉄道系部門 鉄道グループ
チームリーダー
右)岡田 哲也
OKADA Tetsuya
計画系部門 地域整備グループ
統括リーダー