4本超近接回転移行 シールドトンネルの設計

引き継がれる技術と技術者魂、 発展するCFK

本記事は、CFKの技術と技術者魂をベテランの技術者より引き継ぐことを目的とした企画で、若手技術者がベテラン技術者にインタビューし、執筆したものです。当時の同年代の技術者が、様々な困難な壁に立ち向かったドラマを聞くことで、執筆者のモチベーションが大いに向上しました。

世界で初めての工法

佐藤 芳樹
鉄道系部門
鉄道グループ

京都市営地下鉄東西線は、京都府宇治市の六地蔵駅から京都市右京区の太秦天神川駅までを結ぶ路線(図1)です。このうち、建設工事の御陵東工区は、府道四ノ宮四ツ塚線(通称、三条通)において、地上を運行していた京阪電鉄京津線が東西線の建設に伴い地下鉄東西線に片乗り入れする区間であり、利用者の乗降利便を考慮して上下2層の方向別ホームを採用した御陵駅で立体的に(90度回転)接続しています(図2)。

現地は、道路幅員が全幅17.5mと狭く、かつ、交通量も非常に多く慢性的な渋滞箇所であるうえ、京津線の運行を確保しながら道路下での施工を余儀なくされるという厳しい施工条件であり、工事の安全性、経済性、工期等を勘案して、当時、世界で初めての試みであった4本超近接回転移行シールドトンネルを採用しました。

1 路線図(京都市営地下鉄)1)
2 4本超近接回転移行シールド(左上:平面図、左下:縦断図、右:断面図)2)

土木学会技術賞受賞

本工事で開発された設計・施工技術は、複雑な地下構造物を効率的、安全かつ経済的に完成させたことは総合的な技術開発の成果であり、今後ますます厳しい条件下での施工を求められるシールドトンネルの適用範囲を広め、多様化するニーズに適合させる技術として評価され、土木学会技術賞を平成7年に受賞しました。

先人のライフヒストリー

3 対談時の様子(左:土本さん、右:松下さん)

松下惇次さんは、当時は40代半ばで、地下鉄等の多くの設計経験を活かして業務を管理。

土本幸保さんは、当時は入社10年目(20代後半)で、本事業には昭和60年(基本設計)から平成4年までの6年間の間、担当者として参画。これまでは、路線計画および山岳トンネルなどに従事していましたが、部署異動に伴い地下鉄の設計に携わることになりました。

世界初の試みのきっかけ

松下:御陵東工区は、当初は開削工法(一部パイプルーフ工法)で計画されており、平成3年3月には工事発注もなされていました。しかし、路上占用の縮小を指導されたことに伴う工事機械の小型化や工事用地交渉の遅れ等から、大幅な工期の延長が必至となり、東西線全体の工程に大きな影響が出ることが確実な状況でした。

これに対し、この工区の建設工事を受注していた建設会社からシールド工法の採用の提案があり、その実現性に関する技術的検討を始めたことがきっかけでした。

実現するための技術課題

松下:4本超近接回転移行シールドトンネルを実現するためには、以下の克服すべき技術課題がありました。

①線形の成立
②実施可能な施工計画の立案
③構造部材の成立(設計手法)

若手技術者が踏ん張る

松下:①については、土本さんが成立する案を検討してくれました。私では成立する案を到底、作成できなかったと思うので、このタイミングで土本さんと一緒に仕事をしていたことが大きかった。土本さんがいなかったら、4本超近接回転移行シールドトンネルは実現していなかったと思います。

土本:当時は、建設工事を一日でも早く着手させるために急いでおり、周りからまだできないのかと何度も催促されて、重大な責任を感じていた記憶があります。開削工法での計画時には、道路敷地内に収めること、及び杭打ち施工空間の確保のため、構築幅を狭くするように軌道4線を寄せた線形を検討しました。それに対し、シールド工法では逆に軌道4線を広げてシールド構築間の離隔を確保する必要がありました。試行錯誤の結果、発進部で687mm、中間部で718mmの離隔を確保し、松下さん(設計)にバトンを渡しました。

日本の技術を結集する

松下:②については、建設会社にヒアリングを重ね、実現可能との回答が得られたことから、シールドトンネルの採用に舵を切りました。③については、烏丸線建設当時から「京都市高速鉄道建設技術委員会」を設けて技術的な問題について審議していたため、当シールドトンネルについても、技術委員会の小委員会として「京都市高速鉄道東西線御陵東工区シールド工法検討会」を設け、詳細な技術検討が行われました。有識者の意見を伺いながら、先行トンネルに対する後続シールドの推進による影響、シールド掘進に伴う地盤のゆるみ等について検討を行いました。セグメントの設計については、基本的には慣用計算法により部材断面形状を決定し、近接施工の影響を考え、全土被り荷重を載荷し、かつ、地山の緩み要素を側方地盤反力係数の低減で評価しました。

土本:設計に用いた構造モデルは、従来の慣用設計法とは異なり、継手を構造部材としてモデル化する梁ばねモデルを用いており、当時としては先駆的な取り組みでした。これにより、セグメント本体と継手の挙動を設計時で把握できました。

松下:シールド工法検討会では、推進実績データと主計測断面における計測結果をとりまとめ、さらに設計の事前予測解析と実際の施工結果の差異を調査しています。

佐藤:この資料は大変貴重で、近接シールド工法に関する同様の検討をする際に役立ちます。このような資料こそがまさしく技術の伝承だと思います。

4 セグメント外周土圧分布状況(予測値と実測値の比較)3)

良いものをつくるために

4本超近接回転移行シールドトンネルは、地下鉄設計の専門家の松下さんの技術を基とし、路線検討が得意な若手技術者(土本さん)が加わり、更には施工業者と上手く協働できたからこそ、実現できたのだと思います。

私も自分の得意分野をつくり、自分自身の技術力を磨くとともに、周りとの協調を図りながら、より良いインフラ整備に貢献したいです。(2018.05)


【参考文献】
1)京都市交通局ウェブサイト
2)高速鉄道東西線建設工事御陵東工区 パンフレット
3)京都市高速鉄道東西線建設史 京都市交通通局、京都高速鉄道株式会社、平成11年

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