魅力ある仕事

- 社内報『CFK NETWORK』2012年夏号特集「輝く女性技術者たち」より -

はじめに

森 彩
MORI Hikaru
構造系部門
橋梁グループ
プロジェクトマネージャー

大学を卒業した1995年、育休法の大幅改正に伴なう雑誌の特集(対話形式)で、結婚・出産を経て、大阪府で重要なポストに就かれていた正木啓子顧問の記事を拝読しました。正確に文章を写していないため実際とは表現が異なるかもしれませんが、「仕事で男女の差を感じたことはない」、「今の職場は男女に関わらず能力で評価してくれる」等のことが書かれていました。聞き手は、男性社会に一人で飛び込んだ女性技術者の苦労話を引き出そうとしていましたが、終始そういった回答をしない凛とした態度が印象に残り、素敵に輝いている人と感じました。それと同時に、自分が土木の世界で仕事をしたときに、どのような環境で仕事をするのだろうかと思いを馳せました。

14年間の変化

1998年4月にCFKに入社。橋梁系の部署に配属され、丸14年を超えたところです。この間、建設コンサルタントをとりまく環境は大きく変化してきました。発注方式で言えば、価格勝負の一般競争入札から技術勝負のプロポーザル方式へ変化し、今では、価格と技術を組み合わせた総合評価方式で発注されることが多くなっています。道路橋設計では、従来の許容応力度法から性能規定型の設計を目指した方向への転換期を迎えており、さまざまな新技術が実用段階に入り、橋梁形式も多様化しています。以前は、新設橋梁の設計が多かったのですが、既設橋梁の延命化に着目した補修・補強設計が増えています。

橋をデザインする

一番思い出に残る橋は、入社4年目に設計した、河川の最上流部にかかる橋長10mのPCプレテン床版橋(写真1)です。小さな橋でしたが、「橋をデザインする」ことの難しさを感じた橋でした。

直接基礎安定計算で設定する有効根入れ深さ(Df)は、災害時の橋台背面土砂流出の可能性を考慮し、周辺地盤で最も低い位置の河床から設定するのが一般的です。ところが、Dfが小さい場合には抵抗側の押さえが効かず支持力確保のために基礎が増大します。この橋では、橋長10mを支える橋台の基礎長が6.5mというアンバランスな計算結果になりましたが、お客様に指摘されるまでそのことに気付くことができませんでした。細部ばかりを見て全体を見ていない、視野の狭さを痛感しました。地盤条件やDf考慮範囲の再検討を行い、橋台規模を縮小することができました。

また、人々が橋付近で憩うことができる明るい雰囲気の橋にするための細工を入れたい、という要望がありました。側面に水平方向の緩いRラインを施した簡単な細工ですが、大学時代も含め自主的に見ることがなかった景観の本を広げ、人々が憩うことができる明るさとは何か、お客様に3回も打合せの機会を頂き、この細工にたどり着きました。

休日にこの橋を見に行くと、3世代家族が橋の近くでお弁当を食べ遊んでいました。この橋に細工があったから集ってくれたという訳ではないと思いますが、この場所で家族が憩う時間を過ごしていることが嬉しかったです。

1 小さな橋/PCプレテン床版橋

設計がカタチになる

ひとつに橋梁設計といっても、新橋設計や既設橋梁の補修・補強設計があり、設計段階では、計画、予備、詳細設計があります。毎日橋梁に関わる仕事をしていても、詳細設計に携わり、かつ事業が円滑に進むという条件が揃わない限り「設計がカタチになる」までには至りません。また、近年では、設計・施工一括発注であるデザインビルト方式の工事発注形態が増えており、建設コンサルタントの設計を施工業者が変えるという状況もあります。

入社7年目に最大支間125mの波型ウエブPC箱桁橋(写真2)を設計しました。同橋梁形式では、幅員・橋長・支間・橋脚高とも、国内最大級の規模であり、この設計経験が今でも貴重な財産となっています。この橋は、発注者の新たな取り組みの試行工事として「施工方法を意識した合理的な設計、保有技術の有効な活用」というコンセプトのもと、デザインビルト方式で工事発注されました。

この発注形態における建設コンサルタントの役割は、施工業者が技術提案をするための土台とする構造を成果とすることです。これは、施工業者の厳しいチェックを通して技術提案される構造が、私たちの成果から大きな変更がない場合には、架橋地点の状況やお客様のニーズをとらえ、内容の濃い設計をしていた証となる一面を持っています。

最近、雑誌に記載された橋梁一般図を確認すると、支間・橋脚位置は変わっていませんが、構造は、施工業者の保有技術の面で変更されていました。

2 大きな橋/波型ウエブPC箱桁橋

ニーズをとらえる

前述のとおり、建設コンサルタントの業務における近年の発注方式は、総合評価型のように価格と技術で競争する仕組みです。価格は熾烈な争いとなりますが、この争いを少しでも優位にするのは技術です。

ここでいう技術は、技術点につながる評価項目であり、過去の表彰や業務評定点、技術提案書・ヒアリング点等があります。提案する技術は、高度な設計技術以外にも、ミスの無い成果を提出する技術、配筋を分かりやすく表現した図面を書く技術、関係機関との協議をうまく進めるためのノウハウ等、あらゆる技術が含まれています。そして、何より、これらの技術を、お客様のニーズにあった内容として提案することが重要です。

「ニーズをとらえる」⇒技術提案書の点数が高くなる⇒仕事がとりやすくなる⇒受注後も、ニーズに応え、お客様との関係を良好に築く⇒業務評定点が上がる⇒次の仕事をとりやすくなる

CFKでは、このようなスパイラルアップにつなげる取り組みとして、提案書作成時に、複数の分野の技術者が集り、自由な立場で自由な発言をする場があり、少しでも事業者のニーズをとらえようと、全社を挙げて取り組んでいます。また、受注後には、社内ISO規定で定めている設計レビューの場(写真3)を利用し、設計自体の照査だけでなく、お客様のニーズと設計結果の整合性なども照査します。私自身も、この取り組みに積極的に参加し、様々な考えを学んでいます。

おわりに

この14年間、社内の上司・同僚はもちろん、お客様にも男女の分け隔てなく、厳しく暖かいご指導を頂き、仕事を続けることができました。これは、正木啓子顧問のような先輩が活躍され、女性技術者が特別な存在ではない社会風土を醸成されてきたからだと思います。そのような道を切り開いていただいた先輩方に、感謝したいです。

私たちの仕事は、今回紹介したダイレクトに設計がカタチになる仕事だけではなく、計画段階から様々な幅広いアプローチで社会資本形成に貢献できる魅力ある仕事です。しかしながら、貢献するためには、厳しい受注競争に勝ち抜き、そのチャンスをつかんでいく必要があります。土木技術だけではなく、多様化するお客様のニーズをとらえ、それに応えるための様々な能力を身につけ挑んでいかなければなりません。

入社した時点から建設コンサルタントを取り巻く環境は、大きく変化しましたが、一方で、その変化が私たちの技術者魂に刺激を与え、新たな魅力をもたらしてくれています。今後もさらに変化し続けるであろうこの仕事に悪戦苦闘しながら携わっていきたいと思います。

3 業務進行中のレビューの様子

※所属部門と役職は執筆当時のものです

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