土木遺産“聖橋”の長寿命化設計

坂本眞徳
構造系部門
橋梁・長寿命化
グループ
統括リーダー

東京都は、橋梁の管理に関して、いままでの対症療法型から計画的な予防保全型への転換を図って、2009年3月に「橋梁の管理に関する中長期計画」を取りまとめ、翌2010年度より計画的な橋梁の長寿命化対策を推進しています。

ここでは、下表の長寿命化対象橋梁のうち、著名橋(小区分Ⅱ)に区分される“聖橋(ひじりばし)”において延命200年を目標とした長寿命化設計の一部を紹介いたします。

竣工当時の聖橋

聖橋とニコライ堂 1)
聖橋とニコライ堂 1)

聖橋は、JR御茶ノ水駅上を横断し、神田川、外堀通りを跨ぐ橋梁です。神田川を跨ぐRCアーチ部が特に印象的ですが、鋼鈑桁形式による側径間部まで含めて聖橋とされています。

竣工年次は古く、関東大震災後の復興橋梁として1927(昭和2)年7月に完成しました。すぐ上流の鋼ラーメン橋のお茶の水橋、下流のアーチ橋の昌平橋、万世橋とともに「東京都の著名橋」に選定され、神田川の名所となっています。橋名の由来は、東京府東京市(現:東京都)が公募し、両岸に位置する2つの聖堂(湯島聖堂とニコライ堂)を結ぶことから「聖橋」と名付けられました。

デザイン・設計は、当時を代表する山田守、成瀬勝武によるもので、アーチ・リブから伸びる垂直壁もアーチ状になっているのは、山田守が東京中央電信局に採り入れた尖頭(せんとう)アーチを導入したものです。また、表面仕上げは、当時の建築界でようやく産声をあげたコンクリート打放し風による手法が採用されており、建築モダニズムの系譜を辿る上でも貴重なものです。交差条件によって鋼鈑桁となった側径間部についても、耳桁をコンクリート被覆することで、RC橋として外観の統一が図られています。

東京都における長寿命化対象橋梁の目標年数
聖橋全体図

平成初頭の“聖橋”修景整備工事

1989~1991年に大規模な修景整備工事が実施されました。整備方針は竣工時の『原型の復元』を基本としつつ、当時の設計ポリシーを十分に汲み取った上で、現代との調和も図られています。具体的には、次のようにされています。

①壁面を石吹付工に改装
②高欄の復元(万成石)
③デザイン横断防止柵の設置
④橋灯の復元整備(改良型)
⑤天然石による歩道舗装
⑥橋のライトアップ、など

このうち①の壁面工は、石吹付にスリットを入れることで、現代的な高級感がある自然石の石張り風に仕上げられましたが、これは竣工当時のモダニズムの表現であるコンクリート打放し風に反するものであったため、その後賛否を問われることになりました。
 

2015年当時の聖橋(石張り風仕上げ)
2015年当時の聖橋(石張り風仕上げ)

聖橋の長寿命化設計

橋の長寿命化設計は、2010年度にCFKで基本設計を実施したのちに、2011年度には詳細調査を主とする基本補足設計と長寿命化詳細設計を実施したものです。その後も工事発注に伴う対応等を図っており、現在に至っています。
ここでは、長寿命化設計のうち、コンクリート表面の補修対策及び表面処理方法の内容について記述します。

①RC躯体本体の補修対策
わずかに数箇所で実施したRCアーチ本体のコアボーリングのうち、1箇所で幅0.4mmと比較的大きなひび割れが見つかりました。平成初頭に実施された表面処理にはひび割れは見られなかったことから、RC躯体本体の内部に外観では確認できない同様のひび割れが生じている可能性がありました。このことから、今後200年の長寿命化を目的として、既設の吹付工を除去したのちに躯体本体のひび割れ注入・断面修復による補修を行った上で、ポリマーセメントモルタル乾式吹付工法(コテ仕上げ)による表面処理工を施す方針としました。

RCアーチ躯体のコア写真
RCアーチ躯体のコア写真

②意匠設計に配慮したコンクリート表面処理方法
RC躯体の長寿命化対策として改めて表面処理工を施す方針としましたが、表面処理方法の選定にあたっては、長期的な耐久性があり、付着強度,桁下面への剥落が生じない材料とした上で、歴史的な著名橋に相応しい景観に配慮した仕上げとすることにも着目しました。
下記左の写真は竣工当時のものですが、竣工図及び文献等によるとコンクリート打放しの表面に1インチのモルタル左官仕上げが施されており、近年の打放しとは異なるものの、当時では珍しいRC構造をデザインとして表現されていました。この表面モルタルは経年劣化し、平成初頭の大規模な修景整備により美しさを取り戻すことになりますが、石吹付にスリットが施され石張り風を模した仕上げに様変わりしていました。
この仕上げに関しては、国土交通省国土技術政策総合研究所や著名人より、歴史的なRCアーチ構造として竣工当時の設計コンセプトを継承していないとの意見がありました。今回の長寿命化設計におけるデザインコンセプトは、平成初頭の修景整備の考え方を継承した『原型の復元』としていましたが、表面処理工に関しても聖橋が固有するRCアーチ橋としての歴史観を踏まえた竣工時の設計思想に立ち返り、「当時のコンクリート表面(打放し風)を復元する」ことを基本方針に見直しました。

最後に

現在の橋梁(アーチ部のみ完成)

聖橋の長寿命化工事は、並行してJR御茶ノ水駅の大規模改修工事とともに進められており、聖橋が竣工当時のモダニズムの様相に蘇ることに反して、JR御茶ノ水駅は近代的な駅に大きく変貌することになります。延命した聖橋が、今後の時の流れの中で、神田川にどう映えるか、興味はつきません。(2019.02.26リライト)

【画像提供】
 1)公益社団法人 土木学会附属土木図書館デジタルアーカイブス

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