ドイツの構造デザインと視察報告

オリンピア公園(ミュンヘン)

はじめに

CFKは、海外分野を重点分野に位置づけ、研修等の活動を行っています。本視察は、その一環として、海外へ出向き、先進国の公共構造物を視察するとともに、現地の構造設計事務所を訪問して意見交換や情報収集を図るものです。そして、それを通じて、設計技術のみならず、その会社の歴史、取り組み思想・姿勢、業務内容やその進め方、そこに所属する構造デザイナーとしての立ち位置、役割などを知り、日本の建設コンサルタントの仕事に対する理解を深める目的で実施したものです。

事前準備

渡航メンバーが主体となり、 訪問先や視察対象を計画するための社内ミーティングを週1~2回のペースで実施しました。また、大阪工業大学を訪問し、欧州の橋梁事情など有益な情報をご提供いただきながら視察計画を立てました。視察先には、日本と古くから技術交流のある国で、戦前から様々な技術供与を受けてきた歴史があり、世界的な橋梁技術の発展に大きく寄与してきたドイツ(南部)を選定しました。併せて、 行程や通訳の手配などの調整を行い、渡航期間を2023年7月19日~28日の10日間としました。

現地のコンサルタントに聞く

本視察では、MAURER社、SSF社(写真1)、Steinbacher社(写真2)を訪問し、建設コンサルタントの仕事の役割や内容について、日本(CFK)の現状を紹介するとともに、ドイツにおける実態を様々な視点で伺い、意見を交換しました。

訪問先のいずれの会社もドイツ国内に限らずヨーロッパ(EU)あるいは世界規模のフィールドで仕事を展開しており、海外の仕事にも幅広く携われることが魅力的でした。

1 SSF社との意見交換の様子(ミュンヘン)
2 Steinbacher社との意見交換の様子(アウグスブルク)

また、日本では建設コンサルタントの設計者が施工まで携わることは限定的ですが、ドイツでは、特に地方自治体の業務において、設計者が発注作業や施工監理までを担うこともあるとのことです。一つの事業で全てのフェーズに関われて、とてもやり甲斐があると言っていたのが印象的でした。オフィス環境について聞くと、いずれの会社も共通して「執務室は集中できる環境であるべき」という考えを持っており、グループごとに独立した空間が設けられていました。一方で、コミュニケーションも重要視されていて、会議室には大型モニターなどの設備を充実させて、話し合いが効率的に進められる環境が整備されていました。また、建物には防音や太陽光を取り込む工夫がされていて、日本のオフィスとは異なった印象を受けました。

そのほか、少子高齢化や人材確保の問題、多様化する要求への対応など日本が抱える課題をドイツも抱えていて、共感できる部分も少なくないと感じました。

ドイツ博物館を訪れて

3 ドイツ博物館の橋梁展示スペース
石造アーチ模型等の体験型施設に触れる来館者たち

ドイツの橋梁技術が持つ独創性の原点を探るべく、イザール川の辺(ほとり)に建つドイツ博物館を訪れました。発電から宇宙に至るまで様々な科学技術の歴史が展示される中、その一画に広々と設けられた橋梁に纏わる展示スペースには世界の著名な橋梁が数多く展示されていました。ドイツがこれまで培ってきた橋梁の歴史の深さや、技術への強い情熱を象徴していました。また、基礎的な構造メカニズムのわかりやすい説明や、実際に歩きながら荷重計をモニタリングできる吊構造の橋など好奇心を掻き立てる数々の体験型模型も展示されており、子供と大人が一緒に学べるような工夫が随所に見られたのが印象的でした。(写真3)

現地の橋梁に触れて

公園都市として知られるシュツットガルトは、環境保全型の緑化整備が図られ、散策やジョギングを楽しむ人々が多く見られました。その近郊に点在する歩道橋を視察しましたが、なかでもSchlaichが設計を手掛けた橋梁(写真4、5)の造形は特に印象的でした。どの作品もコンセプトがはっきりしていて、その構造には力学的な合理性の中に遊び心があって、それらがうまく融和しているところに独創性を感じました。なかには公園内の目的地をただ直線で結ぶのではなく、曲線を描くことで回遊性を持たせた作品もあり、その発想の自由さに感銘を受けました。

このような合理性と遊び心が共存したクリエイティブな発想が、新たな構造デザインを生むきっかけになることを目の当たりにし、その感性を大切にしたいと感じました。そして、それを実際に形にできる場の一つが、例えばデザインコンペであり、エンジニアにとってのモチベーションを高める意味でも、その機運が日本国内でより一層高まっていくことを期待します。

4 Löwentor Pedestrian Bridge and Net(Jörg Schlaich※)

二つの公園をランダムな曲線で結ぶケーブルネット
※ドイツの構造エンジニア、シュツットガルト大学名誉教授

5 Neckarbrücke(Schlaich Bergermann und Partner※)

ステンレス鋼をレーザー加工した二重曲面シェル構造
※Jörg Schlaich創設の設計事務所

ドイツの街並み、交通

今回訪れたミュンヘン、アウクスブルク、シュトゥットガルトの街は、著名な歴史的建造物が数多くあり、中世ヨーロッパのロマネスク建築、ゴシック建築、バロック建築に溢れ、どれも見応えのあるものばかりです(写真1)。主な公共交通機関は、Sバーン(地上鉄道)、Uバーン(地下鉄)、トラム(LRT)、バスのほか、主要都市を結ぶICE(高速鉄道)から成ります。特にトラムは歴史が古く、ネットワークも発達した便利な交通手段となっています。トラムの近代的な車両が歴史的な景観にうまく溶け込んでいて、そのギャップと融和が街に彩りを与えているように感じました。(写真2)

1 マリエン広場(ミュンヘン)

ネオゴシック建築の新市庁舎と、その仕掛け時計を見上げる人々で賑わう広場

2 トラム(アウクスブルク)

歴史的な景観を背に石畳を走行するトラム

ドイツの駅には基本的に改札がないため、乗車券(ゾーン制)を買い忘れないよう注意しなければなりません。街中は自転車通行帯の整備が進んでおり、自転車の多さとスピードには随分と驚かされました。また、ドイツでは自然を母なるものと捉えており、自然との共生・環境配慮をテーマに都市が形成されています。都市部の中にも、広大な自然公園が多数あり、町を散策しながら自然を楽しめる、過ごしやすい街並みでした。その一方で、落書きが多く、供用中の構造物だけでなく工事中の真新しい物にも見受けられました。設計した作品が日常的に汚されることは技術者として心が痛みました。

防災をはじめとした社会貢献

今回訪問したドイツのコンサルタントは、防災カルテの作成や対策工設計、応急対策などCFKが日本国内で実施しているのと同様の防災関連業務に携わっていました。

ドイツでも、豪雨による洪水等の災害が頻発していることもあり、日本と同様にコンサルタントの果たす役割は大きくなっているようです。現地の担当者は、社会貢献度の高さに誇りをもって仕事をしていると話しており、技術者として共感できました。

おわりに

ドイツにおける地球環境への意識の高さ、自然の共生に向けたクリエイティブな発想など見習うべきことは少なくないと感じました。海外の仕事のやり方は、法や文化、制度そのものに違いがあって日本には馴染まない面もあるかも知れません。ただ、既成概念に捉われることなく柔軟に考え、試してみることも時には必要ではないかと思います。その国の歴史や国民性が仕事や街づくりに色濃く表れるなか、日本の個性を改めて顧みることもコンサルタントの見識を深めるために大切であると感じました。今回の視察を通じて、CFKの仕事の在り方や、技術者としての在り方の将来像について考えるきっかけとしたいと思います。

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