深層崩壊発生 メカニズム

平成23年紀伊半島大災害

2011年(平成23年)8月25日にマリアナ諸島付近で発生した台風12号は、発生後徐々に発達しながらゆっくりと北上し、日本列島へ上陸しました。台風が大型で動きが遅かったため長時間にわたり湿った空気が流れ込み、西日本から北日本にかけての広い範囲で記録的な大雨となりました。特に台風の中心から東側に位置する紀伊半島の山地部では広い範囲で連続雨量が1,000mmを超え、局地的には解析雨量2,000mmを超える記録的な大雨となり奈良県・和歌山県の各地で甚大な被害をもたらしました。(図1)

和歌山県では、特に熊野川流域の浸水や那智川流域の土石流、田辺市熊野地区、伏菟野地区、深谷地区、本宮町三越地区においては、大規模崩壊と呼ばれる「深層崩壊」が発生しました。田辺市伏莵野地区の深層崩壊では、住宅が全壊、5人が死亡し、熊野地区の深層崩壊(図2)でも、民家が流され、3人が死亡、1人が現在も行方不明となったままです。また、本宮町三越地区では崩積土砂が三越川をせき止め、隣接する丘陵部を集落ごと押し流して新しい河道を形成しました。

1 アメダス期間降水量(8月30日~9月4日)1)
2 現在調査中の深層崩壊現場2)

深層崩壊とは?

そもそも深層崩壊とはどういう崩壊なのでしょうか。山の斜面が崩れる現象は、表層の土層部のみが崩れ落ちる表層崩壊と、土層部および下部の風化した岩盤までもが同時に崩れ落ちる深層崩壊とに分類されます(図3)。一般に表層崩壊は、崩壊深さが数m程度までであるのに対し、深層崩壊は数10mに達するという特徴があります。また、深層崩壊は、表層崩壊に比べ頻度は少ないですが、発生すると大規模なものになること、地すべりに比べ移動速度が速く、移動土塊が攪乱されやすいという特徴があります。なお、表層崩壊、深層崩壊という用語は現象を区分した用語で、地すべり、土石流といった土砂災害を表す用語とは分類の異なる用語です。

深層崩壊自体は、新しい現象ではなく、過去にも多く発生していたものと考えられています。紀伊半島でも、明治22年に奈良県十津川村において、100万m3を超える深層崩壊が20箇所以上で発生したといわれています(図4)。近年、深層崩壊の発生頻度が増加しているという意見もありますが、過去の記録をさかのぼると、幾度となく深層崩壊が発生しているようで、増加傾向にあるとは言い切れません。今後、過去の発生頻度について研究を進めていく必要があります。

3 深層崩壊の特徴3)
4 明治22年十津川災害で発生した堰止湖4)

なぜ、山は崩壊するのか?

5 考えられる深層崩壊の発生原因5)

深層崩壊はしばしば豪雨とともに発生している。亀裂の多く入った岩盤部分では、大量の雨水が表層だけでなく、亀裂に沿って岩盤内に大量に浸透します。これにより、岩盤斜面全体の重力に対する抵抗力が減少し深部(岩盤の領域)に至る崩壊が発生するものと考えられています(図5)。

岩盤の亀裂は、付加体形成時の作用による応力(断層運動)、重力(岩盤クリープ)、地下水(風化)などの長い年月の作用によってできます。特に、紀伊半島等に広く分布する四万十帯と言われる付加体(図6)ではもともと亀裂が発達しているため、深層崩壊の頻度が高いと考えられています。今後、深層崩壊のメカニズムを解明していくには、これら岩盤の亀裂の発達、地下水の挙動等の崩壊要因を詳細に調査してく必要があります。

6 付加体地質模式図6)

熊野地区、三越地区での業務

7 地表踏査状況(熊野地区)

現在CFKでは、近畿地方整備局紀伊山系砂防事務所の発注を受け、昨年よりこれら災害箇所のなかで、被害の大きかった田辺市熊野地区、本宮町三越地区の深層崩壊地の地質調査を行っています。

調査では、深層崩壊発生メカニズム、特に崩壊発生の要因になると考えられる亀裂発達部及び地下水について着目して進めています。調査ではまず地表踏査(図7)により崩壊部、および周辺部の基本的な地質構造を把握するとともに、亀裂に伴う地下水の把握に有効な電気探査(図8)を実施し、概略の地下水の状況を推定したうえで、ボーリング調査、試験を行いました。

電気探査はジェイ・シ-・アール製の測定器を用いて差分測定と呼ばれる手法を採用しました。差分測定とは、異なる電圧下における、水の流れによる誘導電位を、比抵抗変化率として捕捉するもので、地盤の中の地下水の流動場所を調べることができます。これは、CFKが協力会社とともに提案している独自の手法です。ボーリング調査では、CFKが提案した多点温度検層やボアホールカメラ等の地山内部での試験を実施するとともに、水文調査ではボーリング孔内水や沢水、湧水を対象とした水位観測、水質試験(イオン分析、酸素同位体分析)を実施しました。これらの多くの調査により、崩壊地周辺地山の地質分布、構造、亀裂の発達状態を詳細に把握するとともに、表流水と地下水の特徴、降雨との関係など水文地質状況を把握しました。これら成果は、崩壊メカニズムの解明にとって重要な情報となります。

8 電気探査による亀裂の多い地下水領域の判別(熊野地区)

研究機関との連携による社会貢献

9 有識者現地案内状況(熊野地区)

今後は、大学等の研究機関と連携した取り組み(図9)も業務と並行して進めるとともに、学会発表等の活動を通じて情報を社会に発信していく所存です。

本業務に関連して、CFKでは京都大学農学部山地保全学研究室と連携し、周辺山体の地下水の調査研究に取り組んでいます。調査研究は、深層崩壊の素因のなかで、特に周辺山体からの地下水供給の関与に注目し、酸素同位体分析を用いた水文地質構造の解明に取り組むものです。水文地質構造の解明が、いずれ山地部における大規模崩壊の予測につながるものと考えます。

今後の展開

現地では、河川流路部の対策事業が進められているが、崩壊斜面に隣接する類似の斜面等についてはまだ、手つかずの領域が多くあります。また、中部、四国、九州地方にも広く付加体(四万十帯)が分布するため、豪雨が発生した際には、紀伊半島の深層崩壊と同じメカニズムによる大規模な崩壊が発生する可能性があります。

今後は、現地調査で得られた情報を整理し、崩壊メカニズムの解明を進めるとともに、予測技術を開発していくことが急務の課題と考えます。そして、社会に防災、減災に向けた情報を提供していくことが、我々地盤に関わる技術者としての責務です。(2014.05)

【参考文献】
1) 和歌山地方気象台資料
2) 和歌山県県土整備部資料
3)(独)土木研究所HP http://www.pwri.go.jp/jpn/webmag/wm014/kenkyu.html
4) 北海道 新十津川村開拓史
5)(独)土木研究所HP http://www.pwri.go.jp/jpn/webmag/wm018/seika.html
6)(独)産総研地質調査研究所HPhttps://www.gsj.jp/geology/geomap/geology-japan/

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