芳賀・宇都宮LRTの 基本設計に取り組む

※本稿は、2015年05月執筆の記事に、一部加筆したものです。

肌で感じた海外のLRT

細川 寛
鉄道系部門
鉄道事業グループ
統括リーダー

平成20年に初めてヨーロッパのLRTを視察する機会を得ました。最初の視察地はニースでした。現地着の夜に早速LRTを見に行くと、架線レス車両が広場の中を静かに通過していきます。その先はトランジットモールで、歩道と軌道に段差はなく、歩いている人のすぐ横を車両が通過していきます。その光景を目の当たりにして、新鮮な感動を覚えました。

平成25年にはLRTで有名な街ストラスブールを訪ねる機会を得ました。2回の海外視察において肌で感じたLRT導入都市におけるまちの賑わい、トランジットモール空間、都市景観に溶け込む車両デザイン、自動車や自転車との連携による公共交通の便利さなどは、都市の魅力そのものだと感じ、日本でも、このようなLRTが実現すればいいなと思いました。

1 仏ニースの架線レストラム

国内のLRTの整備状況

2 富山セントラム(市内環状線)

日本国内では、平成18年に富山ライトレールが開業、平成19年には富山地方鉄道市内線環状化、そして今年の3月13日には、北陸新幹線の開業と時期を同じくして富山駅高架下への市内軌道線の乗り入れが実現するなど、富山において整備が進んでいます。

公共交通の利便性向上とまちづくりとが連携し、高齢者の外出機会の増加など、その整備効果も現れています。

一方で、富山以前の状況を調べてみると、廃止された事例は多数ありますが、新線の整備(部分的な延伸整備除く)は実は昭和37年までさかのぼります。つまり、富山以前は半世紀近く新線整備はなかったことになります。

宇都宮にLRTが走る

今、宇都宮市及び芳賀町でLRTの整備プロジェクトが進行しています。

平成26年度に、宇都宮市より公募型プロポーザルで「軌道基本設計業務」が発注され、地元を含むコンサルタント会社6社とのJVにより業務を受注し、CFKは代表企業を務めています。基本設計の区間は、宇都宮駅東側から芳賀町の芳賀・高根沢工業団地までの延長約15kmです。

今後は、開業に向けて、実施設計や運営主体の決定、法に基づく特許、施行認可申請など、事業化に向けた取り組みが進む予定で、平成31年度を開業目標としています。(※令和3年8月現在、令和5年3月の開業を予定しています。)

3 ルートイメージ

芳賀・宇都宮LRTプロジェクトの経緯

芳賀・宇都宮LRTプロジェクトは、宇都宮清原工業団地等を造成した宇都宮市街地開発組合が平成5年に「新交通システム研究会」を発足させたことにはじまります。

平成13年度には、栃木県・宇都宮市が「新交通システム導入基本計画策定調査」を実施。まちづくりの視点から基幹的交通システムとしてLRTの導入を掲げました。

平成21年9月には、宇都宮市における将来のあるべき交通体系をとりまとめた「宇都宮都市交通戦略」が策定されました。

平成25年3月には、「東西基幹公共交通の実現に向けた基本方針」を策定、LRTを整備すること、東側区間を優先整備区間とすることが明記されました。同年10月からはLRT導入対象区間を芳賀町に拡大し、有識者からなる「芳賀・宇都宮基幹公共交通検討委員会」を設置して、LRTの事業化に向けた検討を行っています。

CFKは、平成13年度の検討から継続的に本プロジュクトに関わっています。

芳賀・宇都宮LRTの目指すもの

①渋滞緩和
宇都宮市及び芳賀町には内陸型工業団地として、清原工業団地、芳賀工業団地、芳賀・高根沢工業団地等大規模な工業団地が立地しています。従業者数は約3万1千人ですが、自家用車による通勤の割合が75%を超えることから、通勤時間帯における工業団地周辺等での渋滞は恒常的となっています。LRTの整備により、自家用車から公共交通への転換を図り、渋滞の緩和に寄与します。


②公共交通主体の交通体系の構築
宇都宮市では、平成20年3月に「第5次宇都宮市総合計画」を策定し、まちの機能や人口が集積した都市拠点や地域拠点、産業拠点などを効果的に結びつけることにより、それぞれの機能が連携しながら都市全体の魅力を高める「ネットワーク型コンパクトシティ」の実現を推進しています。その実現のため、LRTを軸に、既存鉄道やバスとの結節強化や自動車、自転車との連携などを図り、利便性が高く効率的な総合交通体系の構築を目指しています。

4 工業団地周辺での渋滞状況
5 ネットワーク型コンパクトシティの概念1)

芳賀・宇都宮LRTプロジェクトの特徴

①完全な新線計画
富山の場合、富山地方鉄道がすでに市内軌道線等を運営していましたが、宇都宮には既存の軌道事業者がありません。つまり、既存事業者が全くない地域で、15kmもの延長の路線を新規に整備する完全な新線整備計画なのです。したがって、富山以前の約半世紀の空白期間等に起因する、さまざまな「初めて」があります。

②速達性向上を目指す
検討路線では、工業団地へのアンケート結果等より、工業団地への通勤需要が相当数あることが予測されています。現在は、宇都宮東口から企業バスが運行されていますが、渋滞の影響により定時性に課題があります。バスよりも早く、正確に到着できることが重要です。

計画の概要

①路線計画
宇都宮駅東口から清原工業団地を通過し、芳賀高根沢工業団地に至る約15kmの路線で、19停留場の設置を計画しています。道路空間へ導入するいわゆる併用軌道の区間もありますが、鬼怒川には新設の専用橋梁を建設し、一部区間では、高架構造を採用予定など、道路空間外への導入も計画しています。将来的には、JR宇都宮駅を横断し、西側へと延伸整備される予定です。

②車両
需要を踏まえ、国内では広島と福井で導入実績のある30m級の低床車両の導入を計画しています。

③運行サービス等
利用者の利便性を確保するために、ピーク時6分間隔、オフピーク時でも10分間隔程度の運行の実現を目指します。快速運転の実現や信用乗車方式の採用など、利用者にとって便利で速達性向上に寄与する新しいサービスの実現も目指しています。

④設備計画
海外の事例も踏まえながら、都市景観へのマッチ、維持管理の軽減も考慮したライフサイクルコストの削減、最新技術の採用等による設備計画を検討中です。

6 道路空間への導入イメージ

7 30m級の低床車両(福井鉄道の事例)

8 樹脂固定軌道(富山ライトレール)

業務の実施体制

芳賀・宇都宮LRTの設計・整備内容は、今後の国内のLRT計画のスタンダードになるとの認識の下、技術レベルの向上を図るため、JVのみならず、国内路面電車での計画・設計・施工実績や海外における技術動向等の高度な専門知識を有する専門家集団とも連携しながら、基本設計業務を進めています。

CFK内では、鉄道系部門、道路系部門、事業開発本部が主体となり、他部門のバックアップも受けながら総力戦として取り組んでいます。

さいごに

魅力的な都市、魅力的な乗り物は人の心をわくわくさせます。ヨーロッパで体験した感動を本業務に活かしていきたいです。また、LRTの完全な新線計画に係わるという非常に貴重な機会をいただいたため、私自身も技術者としてどん欲に技術を吸収したいと思います。

宇都宮市、芳賀町におけるLRTの整備が、新たなまちの魅力になり、まちの活性化につながるよう貢献していきます。

【参考資料】
1) ネットワーク型コンパクトシティ形成ビジョン(平成27年2月、宇都宮市)

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