維持管理から事業経営へ、広がる建設コンサルタントのニーズ

井上裕司
事業開発本部
社会インフラマネジメントセンター
チームリーダー

インフラの維持管理は、建設コンサルタントの主たる業務のひとつ。維持管理とは、「定期的な調査や点検を行い、補修する」こと。ところが、昨今では建設コンサルタントに求められる「維持管理」のニーズは、事業経営の領域にまで広がりつつあります。

本記事では、私がコンサルティングに取り組んだ、青森県の並行在来線青い森鉄道線と、新宿駅南口駅の交通ターミナル「バスタ新宿」の事例を紹介。これからの建設コンサルタントに求められる、「インフラ事業経営」のあり方について紹介します。

上下分離方式を採用する「青い森鉄道」の課題とは?

青い森鉄道株式会社は、第三セクター方式の鉄道事業者。東北新幹線の開業に伴いJR東日本から移管された、旧東北本線盛岡−青森間のうち、青森県内の並行在来線を運営しています。

鉄道事業者の経営は、多くの場合は運賃の収入によって維持管理等の支出を補います。しかし、青い森鉄道線はこの枠組みでは経営が成り立たないため、軌道や駅舎などの鉄道施設を青森県が保有。車両運行は青い森鉄道株式会社が行う「上下分離方式」を採用しています。

青い森鉄道線の事業スキーム「上下分離方式」
青い森鉄道線の事業スキーム「上下分離方式」

また、指定管理者制度により青森県は青い森鉄道株式会社に保守管理を委託。このため、費用の面で「効率化インセンティブ(動機付け)が働きにくい」という副作用が生じる懸念がありました。

「維持管理」のために「事業判断」が必要とされるとき

CFKでは、青い森鉄道線の最適な維持管理方法を調査する業務を受託。この業務の中で青い森鉄道線の保守管理費を費目ごとに整理しました。他の並行在来線と比較したところ、概ね妥当であることが確認できました。

青い森鉄道線の事業スキームでは、保守管理費を移管前と同程度にしておくと経済的メリットが生じないにも関わらず、その効率性は想像以上。我が国における、鉄道マンの使命感、倫理観の高さを感じさせられます。

一方で、軌道整備やレール交換など、利用者サービスに直結する維持・修繕費に比べると、将来の投資の原資となる改築費が手薄な傾向が見られました。たとえば、駅舎は新幹線開業前の施設のまま。特急が廃止された現在では、ホームの一部しか使用しておらず、他の部分は放置されていました。

一部のみ使用されている青い森鉄道の駅
一部のみ使用されている青い森鉄道の駅

たしかに、廃棄や処分を含む、施設の改修には一時的な費用はかかります。しかし、余剰施設の計画的な廃棄・縮小は、今後の維持・修繕費の抑制に加えて、利用者の安心・安全の向上にもつながります。本業務では、老朽施設に対して改築費を増やすことを提案しました。

ただし、先述のとおり、青い森鉄道線の軌道や駅舎の保守管理費用(指定管理料)を負担しているのは青森県です。最終的には、青森県が判断することになりますが、県民の安全・安心を目的とする改築投資ですから、世論の理解も得られやすいと思われます。

限られた予算の配分をする意思決定は、まさに鉄道事業における「事業判断」であり、青い森鉄道線における「経営判断」でもあるのです。

新宿駅の線路上に整備された交通ターミナル「バスタ新宿」

バスタ新宿は、新宿駅周辺19か所に分散していた高速バス停留所とタクシー乗降場の集約を目的として、JR新宿駅南口に整備された交通ターミナル。2006年4月に起工し、2016年春に完成しました。CFKは、この交通ターミナルの維持管理の検討業務を受託しました。

新宿駅は、一日約350万人が利用する世界一のターミナルです。超過密地区であることから、バスタ新宿はJRの線路上に人工地盤を建設。1階が駅のホーム、2階が駅のコンコースと自由通路、3階が高速バス降車場とタクシー乗降場、4階が高速バスターミナルと、鉄道施設と道路施設が混在する施設になりました。

鉄道施設の管理者はJR東日本ですが、道路施設の管理者は国土交通省です。道路の清掃や点検をどの頻度で行うのかを決定し、維持管理予算を算定する必要がありました。

「建築物」であり「道路施設」という二重の位置づけ

バスタ新宿は、建築申請されているため法律上は建築基準法の適用を受ける「建築物」です。しかし同時に、2階の自由通路および3階と4階に設定された道路の立体的区域は、道路法の適用を受ける「道路施設」でもあります。

本業務においては、建築基準法と道路法の両方から法令上必要となる管理要件の整理を行う必要がありました。

さらに、法令を満たしていれば充分であるとは限りません。そのため、東京都が管理している、新宿駅西口における清掃や巡回頻度等をヒアリング。利用者サービスの観点からも適切な管理要件を検討していきました。

バスタ新宿(JR代々木駅側より)
バスタ新宿(JR代々木駅側より)
バスタ新宿(国道20号線側から)
バスタ新宿(国道20号線側から)

ふたつの事例から見えた収益事業と非収益事業の違い

今回、ふたつの事例の検討を通じて、興味深いことに気がつきました。それは、収益事業と非収益事業では、維持管理費を考えるうえでのアプローチが、まったく正反対であることです。

特定の利用者が支払う料金によって営まれる収益事業では、あらかじめ「維持管理にどの程度の予算を確保するのか」を判断。予算の枠内で、できるだけ高いサービスを提供することを検討します。これに対して、税金が財源になる非収益事業では「必要なサービスを維持するために、どの程度の費用が必要なのか?」と考えます。

つまり、収益事業では維持管理費の「予算」、非収益事業では必要な「サービス」が先に決まるというわけです。

このため、収益事業では効率化インセンティブが働きやすい一方で、サービス水準が低下して安全性が脅かされる懸念があり、非収益事業では求められるサービス水準を達成しやすいけれども、効率化インセンティブが働きにくくなるのです。

元国土交通省鉄道局の技術者は、「非収益事業では、効率化インセンティブが働きにくいため、上下分離によって公共事業に経営の観点を導入することは合理性がある」と指摘されていました。

収益事業に対する「適切なサービス水準を確保するための事業スキーム」と、非収益事業に対する「効率化インセンティブが働く事業スキーム」。これらの構築が、今後の維持管理における重要課題のひとつになると言えそうです。

「維持管理」のニーズの広がりにどう応えるべきか?

入社以来、さまざまなインフラの「維持管理」に携わってきましたが、近年ではアセットマネジメントや総合管理計画など、「事業経営」に関するコンサルティングが新たな市場として生まれています。建設コンサルタントに求められる、維持管理のニーズは確実に広がっているのです。

このニーズに対応すべく、CFKは2017年度に「社会インフラマネジメントセンター」を新たに立ち上げ。私もその一員に加わっています。

インフラ事業経営に対するコンサルティングを行うには、構造や交通等の理科系の知識に加えて、法律や会計、経営等の文科系の知識も必要になります。CFKはさまざまな事業を取り扱う総合建設コンサルタントであり、調査・計画から設計・維持管理に至る経験と実績を有しています

これまで蓄積されてきたノウハウを活用しつつ、法律や会計等の新たな知識の習得と活用を通じて、これからはインフラ事業経営に有効なコンサルティングにも挑戦していきたいと思います。(2019.02.26リライト)
 

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