都市の空間軸として道路を計画する

アートワーク:道路という回路を描く

道路が与える印象

普段使っている道路の印象を問われても、殺風景なアスファルト舗装やガードレールくらいしか思い浮かばない。道路はどこにでもあって、日常生活で道路を意識することはほとんどない。皆さんの道路に対するイメージはそんなところではないでしょうか。ある意味、道路は空気のように生活に溶け込んでしまっているように思います。

では、海外に行ったときはどうでしょうか。訪問した国やまちの雰囲気を真っ先に感じるのは最初に歩く道路ではないでしょうか。国によって舗装の素材や色合い、附帯施設のサイズ感やディテールが結構違います。欧州は沿道建物との一体感があってクラシカルとか、東南アジアは雑多でエキゾチックとか。それに比べると日本の道路は特徴がなくてつまらない、などと思ったりします。

面白いことに日本に来た外国人は、舗装や標識の傷みが少なく、ゴミもない道路をみて、日本は清潔で安全そうな国だと感じるのだそうです。

道路の多彩な機能

図-道路の機能 ※道路構造令の解説と運用(R3.3)P66図1-1をベースに本稿用に作り変えたものです。

私たちは普段、通勤、通学などの移動で道路を利用することが多いため、人流や物流を担ういわゆる「交通機能」の面に目が行きがちですが、道路は「交通機能」のほかに以下に示すような「空間機能」を合わせ持っている多機能なインフラ施設です。「空間機能」は、大部分が副次的な機能ですので、我々は意識せずにその機能を享受していることが多いように思います。

図-道路の収容空間としての活用例
出典:道路構造令の解説と運用

【都市の骨格を形成する機能】 パリや東京の放射環状、ニューヨークや京都の碁盤の目など、まちの形や空間割り、交通動線を道路配置によって決定づける機能です。実務では地理、地形、主要施設の配置から適切な計画を立案します。
【環境機能】 緑化や修景などにより、道路利用者や沿道住民に快適な都市空間を提供する機能です。利用者の目に見えるわかりやすい機能なのですが、見慣れてしまうと忘れられてしまいがちです。実務では過剰な装飾は避け、メンテナンスフリーや公共性を意識して、シンプルに機能美を追求することが肝要です。
【収容機能】 交通機能と並んで重要な機能です。上下水、ガス、電気、情報管路のほか、立体活用による地下鉄やモノレール、地下道路など様々なインフラが道路に収容されています。道路空間の存在を前提に成立する機能ですが、多くの場合、埋設されて見えないこともあって、道路の機能として認知されることは少ないように思います。
【賑わい機能】 市街地の中心部でモール化などにより、人の滞留や交流を生み出す機能です。道路を舞台装置として位置づけ、賑わいを創出します。
【防災機能】 延焼防止や災害発生時の避難、救急救命、復旧活動の動線提供など非常時の機能であり、これも日常生活では実感しづらいものです。

道路の空間機能について書くとキリがありませんが、つまるところ、道路を計画するということは、これらの様々な空間機能を適切にまちに配置するということを意味しています。

まちづくりにおける道路の重要性

都市における公共施設の土地占有率

※統計資料(東京都区部H28年、大阪市H29年度)より円グラフを作成

統計資料で調べると、都市の面積の約2割を道路が占有しています。公共施設というくくりで河川や公園を含めると3割~4割が公の土地ということになります。

都市面積の2割を占め、交通機能と空間機能を有する道路の配置と構造を設定すると、必然的にまちづくり計画の主要部分が確定してしまいます。

都市の制御装置としての役割

ネットワークとして張り巡らされた道路は都市を稼働させるための回路のように機能します。物流機能やインフラ収容機能を有する道路は都市の「パワー回路」としての役割を担っています。また、人流機能を人という情報の流れとして捉えれば道路は都市の「シグナル回路」としての役割も担っています。

道路の計画、設計に携わる私たちは、その意図に関係なく道路ネットワークという巨大な回路をつくることで、都市全体を制御する装置を提供していることになります。

都市を電子基板に例えて回路ということばを使用しましたが、電子回路の設計では電子基板に配線パターンを描くことを「アートワーク」というそうです。都市に道路という回路を描くことも「アートワーク」と表現してもいいのではないかと思います。余談になりますが、電子回路ではパワー回路とシグナル回路をできるだけ離さないとノイズが発生してよろしくありません。道路も同様に物流と人流はできるだけ分離することが住みよい都市をつくるうえで重要になってきます。

道路は複雑で難解なパズル、難問を解く面白さ

道路分野で担当するまちづくりは、概ねの都市レイアウトから道路ネットワークを設定し、主要路線の計画を具体化したうえで、地区単位の動線計画を行い、最終的に付帯工まで含めた詳細構造を設計し、道路空間というかたちでアウトプットします。道路は多機能であるがゆえに、様々な条件を考慮しながら段階に応じて計画に修正を加えて精度を上げていくことになります。

近年は住環境面への配慮から物流と人流の分離は必須であり、広域的に分離誘導する道路ネットワークを考えなければなりません。地域によっては観光動線も分けて考える必要があります。地下鉄や共同溝など大型インフラの収容空間の確保、立体交差における橋やトンネルといった大型構造物の配置、これらの施工方法なども考えておく必要があります。豪雨災害に備えた排水施設の配置、地震災害や津波浸水、土砂災害などを想定し、いざというときに使える強固な道路構造にするとともに、災害や老朽化時の大規模更新を想定したダブルネットワークの構築も図らなければなりません。他の交通機関との交通分担を想定した結節点へのアクセス強化、自動運転支援や情報一元化によるサービス提供(スマートシティ、MaaSなど)への対応、維持管理の高度情報化など未来社会への対応も図っていきます。

都心部ではまちのシンボルとなるように、市街地や商店街では来訪者が安心して周遊できるように、場所に応じた道路空間を構築していきます。緑化等の修景では見た目だけでなく、メンテナンスの省力化も考慮した計画としなければなりません。日常の生活空間となる住宅地等では、通過交通の排除、自動車の速度抑制、一方通行化など面的な誘導といった交通規制計画も行います。沿道アクセスのため、宅地との高低差はcm単位で調整し、電線共同溝やその地上施設の配置、埋設インフラの各戸への端末管接続にも配慮して、細部構造を決定しなければなりません。地域の祭りやイベント開催時の運用、歴史的文化財の保全、自然環境への配慮なども必須事項です。多機能ゆえに関連する項目も多くなります。それらのすべてを把握したうえで、必要となる交通容量と交通安全を確保した道路を計画していかなければなりません。

最適解を模索する作業はとても大変ですが、難しいからこそ成し遂げた時の達成感も大きい仕事です。

造りたいものを具現化する

指示されたものを作るだけでは仕事としては面白くありません。建設コンサルタントは自分が造りたいもの、理想を持って業務に取り組むべきだと思います。その思いの強さ、強い願望をもって、提案を行い、様々な関係者と議論を重ね、改善を繰り返すことで、ようやく満足できる結果が得られるものだと考えています。

将来性:自由に移動したいという欲望はなくならない

最近はコロナウィルス感染予防のために外出自粛の要請が出ていましたが、人間は本質的に束縛されずに行きたいところに自由に移動したいという欲望を持っています。ちょっと話が飛躍しますが、日本国憲法の第22条「居住・移転および職業選択の自由」、第25条「生存権」、第13条「幸福追求権」などの人権が集合した権利として「移動権」や「交通権」といわれるものが認められています。

誰もが自由に移動するには、都市と都市を結び、都市や街区の基盤を形成し、ドア・ツー・ドアの移動を実現できる道路という装置が欠かせません。
日本の道路整備は先進諸外国に比べて最低水準と言われており、今後も国策に基づき積極的な投資が見込まれています(令和4年度当初の道路関係予算は2.3兆円)。

いまだに未成熟なネットワークの改善、将来に向けた自動運転やICTへの対応、道路空間の再編など、道路分野にはこれからもなすべきことは多く、若者にとっても一生涯の仕事として向き合えるだけの価値はあるものと考えています。

松尾 真信MATSUO Masanobu
道路系部門
ゼネラルマネ-ジャー

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