
本投稿では、東京の道路整備の歴史を紐解き、CFKがその整備方針の理念を実践してきた例を紹介します。
東京の都市形成の歴史と理念

東京の道路網は、皇居を中心とした環状路線を基本とし、かつ放射状に延びる道路の組合せからなる構造です(図1)。さらに、都市内に立体的に道路を整備することで膨大な交通量を処理しており、これらは世界の大都市と比べても複雑で特徴的な造りです。このような都市構造に至る歴史を紐解くと、関東大震災復興時や戦後復興時に、単なる復旧にとどまらない既存の課題の解決に資する道路整備計画が描かれていましたが、その後の経済・財政状況の変化や予測以上の急激な人口増など、様々な社会的要因によって、整備が計画どおりに進まなかった結果、現在のような道路網が形成された経緯があります。
しかし、戦後復興時に構想された都市計画道路の整備方針には現在に引き継がれているものも多く、その最新である都の第四次事業化計画(2016年)1)では、「道路整備の”基本理念”」として、「①東京の目指す都市づくりに資する道路整備」「②都民のニーズに対応した利用者・生活者の視点からの道路整備」が掲げられています。
①は「骨格幹線道路の整備」、②は「誰にでも使いやすい、生活に密着した道路の整備」が重要な要素としてあり、それぞれについてCFKが携わった事例を紹介します。
東京の骨格をつくる
1つ目の要素である「骨格幹線道路の整備」は現在までに着々と進められ、その完成率は区部で約71%、多摩部で約65%に達していますが(2014年時点)、残る骨格幹線道路についても東京の発展に寄与する路線として早期整備が必要とされています。CFKは、これらの骨格幹線道路の整備の一翼を担ってきました。ここでは一例として「北西部幹線道路」(正式名:八王子都市計画道路3・3・74号左入美山線)の整備について説明します。

当該路線は、八王子市北西部に位置し、中央道八王子ICから圏央道八王子西ICに接続する都市計画道路(一般道)です(図2)。第三次事業化計画(2010年)時点では、市施行の区間がありましたが、八王子西ICのフルIC化や沿線の物流拠点・地域拠点の整備事業の開始など、周辺の社会経済状況の変化により、路線の重要度がより一層大きくなったため、第四次事業化計画(2016年)1)において、未事業化区間全線が都施行として優先的に整備されることになりました。
CFKは2017年から当該道路の設計に携わり、整備の推進に貢献しています。2017年以前は、当該道路は往復4車線(停車帯なし)で計画されていましたが、計画交通量の見直しや「都道における道路構造の技術的基準に関する条例」の制定(2012年)などを受け、停車帯ありの往復2車線で計画することになりました。当該路線は、骨格幹線道路であり、比較的高いトラフィック機能が求められる一方で、起伏の大きい市街地で交差道路や沿道民地へのアクセスを確保する必要がありました。
加えて、自転車通行空間の整備に関する基準が制定されたことを踏まえ、自転車道を新たに計画する必要がありました。そこで、本線はトラフィック機能確保のために縦断勾配を緩やかにする一方、都市計画幅員内で副道を設けて沿道等へのアクセスを確保する計画とし、自転車道は走行性を考慮し本線側に設置しました(図3、4)。

幅員構成や整備形態については、今後の関係機関との調整により、変更となる場合があります

生活に密着した道路をつくる

2つ目の要素である「生活に密着した道路の整備」の例として、CFKは2011年度より継続して「東京都環状第1号線道路整備事業」に携わっています。環状1号線は皇居外苑を周回する総延長6.5kmの環状道路です。本事業では九段下駅~竹橋駅の580mの区間の歩行者ネットワーク強化を目的として、現況の20m程度を30m程度に拡幅(歩道は最大8m程度まで拡幅)する計画であり、2012年に事業が認可されました(図5)。
事業認可後も、自転車利用状況の変化や、歩行者の利便増進を図る空間のニーズの高まりといった道路情勢の変化に対応するため、たびたび計画の変更を行いました。具体的には、当初は歩道内に自転車道を整備する計画であったのを、近年の自転車利用の変化(車道通行の原則化)に伴い、車道内の自転車通行帯の整備に変更しています。
また、東京都の上位計画の変更に対応した計画も今後予定しています。東京都のかつての上位計画に「シンボルロード整備事業」(以下、「シンボル」という)(1990-2021年)があり、これは高度経済成長後の乱雑としていた街並みを改善することを目的に、道路空間の整備を良好な景観づくりの先導役として位置付けることで街全体の景観向上を図るものです(一例としてCFKが携わった六本木通りの景観整備・バリアフリー対応の計画をタイトル画像に示す)。その後継として2021年に策定された「東京都ヒューマン1stストリート事業」では、かつて地域のランドマークとなる景観整備が求められた「シンボル」と異なり、「沿道の街並みとの調和、誰もが利用しやすい道路、経済性」を重視しています。
環状1号線は引き続き「シンボル」の対象として整備することに変わりはないものの、現代の空間整備において沿道との調和や経済性といった要素は当然重視するべき内容であり、今後は沿道の再開発と調整を図ったデザインや、維持管理に配慮した舗装材料等を提案していく予定です。
技術者としての責務
道路の計画・設計に携わる者としては、都市づくりに資する道路整備や利用者・生活者視点からの道路整備といった、いつの時代でも普遍的と考えられる部分を芯として持ちつつ、今後の社会情勢や技術革新の変化に対し、柔軟に対応していく必要があります。
また、人口や交通・文化などが密集した東京において道路を計画することは検討が複雑を極め、多大な労力が必要になるものの、世界に誇れる首都の形成を担えることは技術者として大きな喜びです。今後も、先人たちの精神を受け継ぎ、より安心・安全・快適な都市として後世に引き継いでいくことが、東京の空間づくりの一端を担う技術者としての責務であると考えます。
【参考資料】
1)東京における都市計画道路の整備方針(第四次事業化計画)(2016.3)一部追記
2)「都市計画素案のあらまし 八王子都市計画道路3・3・74号左入美山線(北西部幹線道路)」(東京都、2021.7)