大きすぎる相手
地下鉄の駅や出入口の設計という仕事は、道路や橋梁のように都市の風景として目立つものではありませんが、土の中で陰ながら都市機能を支える、まさに土木の世界においても「縁の下の仕事」です。新しい路線の駅や出入口、既存駅の増設や改良など、対象が変われば求められる役割もまったく異なります。病院の近くに増設する出入口であれば、車いすやベビーカーの利用を想定したエレベーターやエスカレーターが欠かせません。防災目的の避難階段であれば、安全に地上へ脱出できるよう利用者数に基づいて計画する必要があります。他線への乗換駅では、何よりも「最短で迷わない」動線が重要になります。
インフラには豪華さよりも機能性が求められます。必要なものを過不足なく整えることが構造物計画の基本だと考えられます。
しかし、そんな価値観を揺さぶる案件がありました。それが、夢洲駅の出入口設計です。夢洲駅は、夢洲のIRをはじめとする国際観光拠点と、大阪・関西万博を見据えて開業した駅です。
業務の初期段階で渡された概要図を見たとき、皆で思わず目を疑いました。
あまりにも大きかったのです。
スケールを実感
業務メンバーの年齢的に、いままでに年間3,500万人が訪れる国際観光拠点や万国博覧会の規模を実際に体験したメンバーはいませんでした。そのため、このスケールがどれほど必然的なものなのか、当初は実感が湧きませんでした。
しかし、数字は正直でした。
列車運行計画から出入口の利用者数を算定すると、ピーク時の利用者数は御堂筋線の主要駅と同レベルになることが分かりました。さらに、万博開催中は地下鉄でやってきた来場者のすべてがこの出入口を通って会場へ向かう想定でした。
必要な規模が徐々に現実味を帯びてきました。
昇降施設の計画では、階段幅を10mとし、エスカレーター4基とを併設することで、ピーク時でも「前の人と歩調を合わせられる状態」を確保しました。
一方で悩ましかったのは、エレベーターの台数です。車いす利用者、ベビーカーを利用する家族、重い荷物を持つ旅行者など、エレベーターを利用する可能性のある方々は少なくありません。
しかし、実際にどれだけの人がエレベーターを使用するのかを正確に予測することは困難でした。最終的には、日本の人口に占める身体障がい者の比率などを参考にし、2基のエレベーターを計画しました。
ミッション遂行のために
最後に残った課題は、昇降施設のレイアウトでした。
どれだけ適切な台数を確保しても、昇降施設のレイアウトが悪ければ旅客の流れは一気に滞ってしまいます。「スムーズな移動を提供する」というミッション遂行のために、複数の案を比較し、実際の利用者の動線を想像しながら、最適と思われるレイアウトを選定しました。
実際に検討した案を図1に示しています。どの案が最適か、ぜひ利用者の立場で考えてみてください。
「万博の高揚感」がよみがえるレガシーへ
万博開催期間中、何度か夢洲駅を訪れました。
列車が到着するたびに大勢の人々が出入口へ押し寄せ、その流れを眺める中で、当初抱いていた困惑はいつの間にか「これでよかったのだ」という確信へと変わっていました。
万博が終わった今、夢洲駅はしばらく静けさを取り戻しています。しかし、多くの人にとって、この出入口が万博の思い出を呼び起こすレガシーとなってくれていれば、これ以上の喜びはありません。
一方で、統合型リゾートが開業すれば、夢洲駅はまた新たな表情を見せてくれることでしょう。駅というものは、時の流れや人の動きに合わせて、変わり続ける存在だからです。
「設計の仕事をしています」と言うと、多くの人は構造計算や図面を作成することを思い浮かべるようです。しかし、それらの前段階である基本計画や概略設計こそが、実は最も重要な「設計(Design)」だと考えています。完成した構造物の価値は、設計の段階でどれだけ未来の利用者の姿を想像できるかによって決まります。それは技術であると同時に、「感覚(Sense)」でもあるのです。
鉄道系部門 地下鉄道グループ






















