視察概要
2025年6月8日~15日の8日間の日程で建設コンサルタンツ協会主催の海外インフラ事情調査に参加しました。協会加盟各社からの分野・年代が多岐にわたる参加者とともに、イタリア、オーストリア、スイスを訪れ、道路交通・港湾・河川・鉄道関連施設を視察しました。訪問した3カ国と日本のインフラを通した文化の違いについて報告します。
イタリア:陽気さとこだわりがあふれる
イタリアでは、港湾都市ジェノバとイタリア北部の中心都市ミラノを視察しました。
ジェノバの視察では関西空港のターミナルビルの設計を手掛けた建築家レンゾ・ピアノ氏設計のサンジョルジョ橋と管制塔を視察しました。2013年、出港中のコンテナ船がジェノバ港の管制塔に衝突し、塔の崩壊により管制官9人が死亡する大事故が発生。代替の新たな管制塔は供用に向けた工事が進められており、高さ約65mに位置する管制室まで登り、見学しました。
サンジョルジョ橋は2018年、供用中に崩落したモランディ橋の代わりに2020年に再建された橋梁です。モランディ橋の崩落により43人の命が失われました。レンゾ・ピアノ氏は出身地であるジェノバでの2つの悲惨な出来事を受け、まちのシンボルの復興に尽力しました。地震が比較的少ないジェノバでは、日本と比べると構造物はスリムでした。サンジョルジョ橋の上部工は、港湾都市に位置していることから、「谷間に停泊した船」の船体をイメージしており、設計にあたっては、模型による風洞実験がなされています。自身の設計に妥協しない姿勢は技術者として学ぶべきであると感じました。なお、サンジョルジョ橋は建設開始から15ヵ月で供用と、現地在住のガイドさんも驚くスピードでの再建となったようです。
イタリア人は陽気でおおらかな国民性と言われます。大型バスが路地で何度も切り返しても気長に待っていたり、駐車は何度も切り返してでも強引に停めたり(多少ぶつけても気にしないそう)と国民性が垣間見えました。一方で、レンゾ・ピアノ氏のジェノバ愛やミラノっ子のおしゃれへのこだわり、古い建物を使い続ける等、故郷や自分たちが大事にするものを大切にする姿勢はとても素敵でした。
また、食へのこだわりも強く、パスタ・ピザ・リゾットなどなど本場の味を堪能できました。中ででもジェノバで食べたジェノベーゼのソースとショートパスタの相性は最高でした。日本ではあまり見ない形のショートパスタでしたので、買って帰ってきてしまいました。物価も他の2カ国と比べるとまだ良心的であったため、個人的にも再訪したい国です。
オーストリア:公共交通の使ってもらい方
オーストリアではスイスとの国境に位置するフォアアールベルク州の3都市(フェルトキルヒ、ドルンビルン、ブレゲンツ)を視察しました。いずれも人口は5万人程度の都市ですが、1時間に片方向4本の鉄道とそれらに合わせてバス路線が各拠点駅で接続するタクトダイヤが組まれています。平日の日中時間帯においても日本の地方都市のような閑散とした鉄道・バスではありませんでした。また、日本やイタリアとは異なり、オーストリアやスイスは信用乗車方式であるため、駅に改札がありません。そのため、街から駅への動線や駅の反対側への動線確保等設計の自由度はかなり高い印象を受けました。そして、駅前広場は使ってもらいたい交通モードの順に、広場の中心からバスターミナル、自転車駐輪場、駐車場という配置で自然と公共交通や自転車移動を促す配置となっていました。
鉄道駅、近隣都市への路線が頻繁に発着
改札が無くプラットフォームへ直接アクセス可能(左奥)
赤い駅舎の正面にバスターミナル、横に駐輪場(右奥)が配置されている
スイス:自転車とトラムが駆け回る
スイスで印象的だったのは自転車とトラムの普及です。スイスの各都市では自転車レーンが整備されており、日本でもよく見る歩道側の車道の端だけでなく、各車線の端に自転車レーンが整備されていました。とても怖くて自転車を乗りこなす自信もなければ、設計すると考えた時点でかなりの恐怖がありました。
車道のど真ん中を自転車が走り抜ける
チューリッヒ都心部の公共交通ではトラムとバス路線が網の目のように張り巡らされていました。Google mapsの乗換案内にも対応しており移動に不自由はありませんでした。一方で、スイスは時計が有名であり、公共交通機関にも高い定時性が求められているようで、自動車と同じ車道上を走ることもあるトラムは少し余裕のあるダイヤ設定となっていたのか、距離の割には移動に時間がかかっていたように感じました。また、街を歩いた印象としては、トラム>歩行者>自転車>自動車の順に優先されているようでした。
日本のインフラ
先進国といわれる欧州諸国のインフラを視察して、道路空間の使い方や公共交通のあり方等、参考にできる事例を肌で体感できる貴重な機会でした。同時に、日本のインフラも意外ときめ細かく設計されているのではと改めて考えさせられました。道路の設計で考えると、欧州の路面標示はいたってシンプル(「止まれ」なんて書いていないが車線運用は複雑)、逆走防止の標識もほとんどありません。トラム軌道に自動車が誤進入していたことも。他にも一部の駅ではホームの傾斜を鉄道(軌道)と反対側に付けるなど転落防止に配慮されていたものの、駅のホーム柵は見かけませんでした。もっと細かなところでは、エスカレーターのステップの黄色縁がなかったり点字ブロックは直線的につながっていなかったりと。設計するには楽かもしれないが必ずしも利用者目線ではないことも多々ありました。
ただし、利用者側である市民には困っている人がいたら助け合う・譲り合うという精神があり、そこまでのきめ細やかさを求めていないのではないかと感じました。
自然と周りの乗客・乗務員が声を掛け合っている
インフラはあって当たり前、なおかつなんでもかんでも効率的・便利にしようとする日本的な考え方がインフラ設備に求める使いやすさのハードルを上げ続けていると感じた視察でした。
玉井 幸志朗TAMAI Koshiro
道路系部門
道路グループ











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